愛は痛みを伴いますか?(17)

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16話

 知り合ってから一ヶ月余りで、合鍵を渡してくるなんて、軽すぎる。

 タイミングを見て返そうとは思っているのだが、これがなかなか難しい。鍵の話を切り出そうとすると、敏感に察知した幹也は話題を強引に逸らす。彼のトークテーマの取捨選択が上手いせいで、雪彦はつい、話に乗ってしまう。

 そのため、雪彦のキーケースには、家の鍵と自転車の鍵の他、幹也の家の鍵が収まったままだ。

 自分から使ったことはない。家主のいない家に上がり込んで、勝手に寛ぐなどという厚顔無恥な行い、主が許可をしていても、雪彦にはできない。

 俺が友達連れて、勝手にたまり場にしたらどうするんだよ、と一度強く言ってはみたものの、「雪彦さん、そこまで仲のいい友達いるんですか?」と、逆にぎゃふんと言わされた。つるんでいた連中とは切れて、他の同級生とは普通に話せるようにはなってきたが、学校以外で遊ぶ友人は一人もいない。

 頭を掻きむしると、スマートフォンが新着メッセージを受け取って、ふるる、と小さく震動した。だいたいこの時間にメッセージを送ってくるのは、割引目当てに適当に友だちになった企業アカウントからの宣伝だろう。そう思いながら開いた。

『風邪を引いたので、今日の約束はなしで。ごめんなさい』

「マジかよ」

 相手は幹也だった。今日は雪彦のアルバイトが終わったら、幹也の家で夜通し海外ドラマのDVDを見ようと約束していたのだ。アメリカが舞台の医療ドラマで、教授もハマっているらしい。

 そういえば、今日は、一度も彼の姿を見かけなかった。金曜日は一つも履修している科目が被っていないとはいえ、珍しいこともあるものだと思っていたが、最初から登校していなかったのなら、頷ける。

『そんなにひどいのか? 熱は?』

 雪彦のメッセージへの返信は、なかった。既読マークすらつかない。力尽きて倒れているのではないだろうか。

 あの広い部屋で、一人で寝込む。想像しただけで、うすら寒くなる。看病してくれる相手が誰もいないのは、心細いことだろう。

 雪彦は時計を確認して、時間を計算する。アルバイトは、通っていた予備校のチューターだ。大学からまっすぐ向かうつもりでいたから、スーツは着てきたし、鞄に必要な物も入っている。今はまだ昼間だし、次の講義は休講連絡が回ってきたから、余裕がある。

 スマホに文字を打ち込みながら歩く。相手は母親だ。

『風邪のときの差し入れって、何がいいと思う?』

 あまり構われるのは、大学生にもなって嫌だけれど、こういうときに相談しやすいのは、やはり親であった。

 幹也は親に連絡しているだろうか。おそらくは否だろうことを想像して、雪彦は足早に、駅へと向かった。

18話

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