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<13話
五月とは思えない太陽が、照りつけてくる。帽子なんて持ってないから、頭から太陽光線のダイレクトアタックを受け、体力ゲージがガンガン削られていく。
俺は待ち合わせ時間の十分前には、現場に着いておきたい。わかりづらい場所や初めて行く場所だったら、迷ってもいいように余裕を見て、三十分前の到着をめがけて行動することもある。が、待ち合わせ相手たちは、マイペースの権化であった。
すでに待ち合わせ時間の十時からは、十五分以上過ぎている。スマートフォンにも連絡は来ていない。
あれ? これもしかして、俺、騙されてる?
同好会を辞めようとする裏切り者だから、ひどい目に遭わせてやるとか、そういう話?
俺がいるのは、県内で一番栄えている街の駅前だ。買い物をしたり遊んだりするなら、ここに行っておけば間違いない。だいたいどんな地方にも、ひとつはある。そんな街だ。
待ち合わせはだいたい、駅前のハチ公……ではなく、山をかたどったゆるキャラ・山ちゃんのオブジェ前。山に囲まれた街とはいえ、安易なキャラクターだ。
同じように人待ち顔の人々が、スマホを弄っているけれど、ひとりまたひとりと相手がやってきては消え、新たに待ち合わせの人間がやってくる。俺のところには、まだ来ない。
暇つぶしに弄るスマートフォンが、熱を発している。これ以上の使用は危険だと判断して、ボディバッグの中に放り込んだ。
水を買ってこなかったのは、失敗したなぁ。ぐったりとうなだれると、
「っ、ちょ!」
首筋に冷えたものをあてられて、びくんと肩が跳ねてしまった。みっともない反応が恥ずかしく、勢いでごまかそうと振り返る。
「瑞樹先輩~……」
恨みがましい低い声で呼ぶと、彼は「ごめんごめん」と、俺の肝(と首)を冷やしたペットボトルを寄越した。水でもお茶でもスポーツドリンクでもなく、コーラなあたり、彼の趣味が現れている。
「ありがとうございます」
待ち合わせ時間に遅れた点について謝罪はなかったが、瑞樹先輩の笑顔が無邪気で、突っ込む気はなくなった。ペットボトルを受け取り、一口飲んだ。甘ったるい液体でも、だいぶ渇きは癒える。
「呉井さんは?」
Tシャツの短い袖で汗を拭いながら聞く。瑞樹先輩は、ぴしっとアイロンがかかったハンカチで同じく汗を拭きつつ、
「もうすぐ来る……あ、来た!」
と言う。
先輩が手を振る方向を見ても、俺には呉井さんが見えなかった。ようやく知覚できたのは、それから数十秒後だった。瑞樹先輩、こんなに目が細いのに、どんだけ遠くまで見えているんだろう。
「遅くなりました」
汗だくの俺たち男と対照的に、呉井さんは白のシャツワンピースにスキニーデニムを合わせ、なんとも涼しげな装いだった。
というか、私服姿を見るのが初めてだ。制服のブレザーもよく似合うが、今日の服もとてもよく似合っている。髪型も、いつもは下ろしたままだが、今日は少し手間をかけ、編み込みになっている。可愛い。
「明日川くん?」
はっ!
ガン見していた。ここで「呉井さんの私服が珍しくて」と言う愚直なまでの正直さも、「呉井さんが可愛いからつい」と冗談めかして本音を言う勇気もない。必殺・話題転換をする他ない。
「いや。それよりさ、結局今日って、何をするの?」
呉井さんは瑞樹先輩と顔を見合わせ、可愛らしく小首を傾げた。
「言ってませんでしたか?」
「聞いてないよ。瑞樹先輩と仙川先生には通じてたけど」
そこまで言って、不意にいつものメンバーが一人欠けていることに思い至る。
「あれ? 仙川先生は?」
同好会ゆえに、正式な顧問はいない。仙川が顧問のようなものだ。生徒だけの集まりなら気楽だが、先日の呉井さんの口ぶりだと、彼が重要な役割を担っているはずだ。なのに、仙川はこの場にはいない。
恵美は別行動、と呉井さんは言った。そして腕時計を見て、「それではこれから二時間、ゲームを始めましょう」と宣言した。
……いや、だからゲームってなんだ?
>15話
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