クレイジー・マッドは転生しない(14)

スポンサーリンク
クレイジー・マッドは転生しない

<<はじめから読む!

13話

 五月とは思えない太陽が、照りつけてくる。帽子なんて持ってないから、頭から太陽光線のダイレクトアタックを受け、体力ゲージがガンガン削られていく。

 俺は待ち合わせ時間の十分前には、現場に着いておきたい。わかりづらい場所や初めて行く場所だったら、迷ってもいいように余裕を見て、三十分前の到着をめがけて行動することもある。が、待ち合わせ相手たちは、マイペースの権化であった。

 すでに待ち合わせ時間の十時からは、十五分以上過ぎている。スマートフォンにも連絡は来ていない。

 あれ? これもしかして、俺、騙されてる?

 同好会を辞めようとする裏切り者だから、ひどい目に遭わせてやるとか、そういう話?

 俺がいるのは、県内で一番栄えている街の駅前だ。買い物をしたり遊んだりするなら、ここに行っておけば間違いない。だいたいどんな地方にも、ひとつはある。そんな街だ。

 待ち合わせはだいたい、駅前のハチ公……ではなく、山をかたどったゆるキャラ・山ちゃんのオブジェ前。山に囲まれた街とはいえ、安易なキャラクターだ。

 同じように人待ち顔の人々が、スマホを弄っているけれど、ひとりまたひとりと相手がやってきては消え、新たに待ち合わせの人間がやってくる。俺のところには、まだ来ない。

 暇つぶしに弄るスマートフォンが、熱を発している。これ以上の使用は危険だと判断して、ボディバッグの中に放り込んだ。

 水を買ってこなかったのは、失敗したなぁ。ぐったりとうなだれると、

「っ、ちょ!」

 首筋に冷えたものをあてられて、びくんと肩が跳ねてしまった。みっともない反応が恥ずかしく、勢いでごまかそうと振り返る。

「瑞樹先輩~……」

 恨みがましい低い声で呼ぶと、彼は「ごめんごめん」と、俺の肝(と首)を冷やしたペットボトルを寄越した。水でもお茶でもスポーツドリンクでもなく、コーラなあたり、彼の趣味が現れている。

「ありがとうございます」

 待ち合わせ時間に遅れた点について謝罪はなかったが、瑞樹先輩の笑顔が無邪気で、突っ込む気はなくなった。ペットボトルを受け取り、一口飲んだ。甘ったるい液体でも、だいぶ渇きは癒える。

「呉井さんは?」

 Tシャツの短い袖で汗を拭いながら聞く。瑞樹先輩は、ぴしっとアイロンがかかったハンカチで同じく汗を拭きつつ、

「もうすぐ来る……あ、来た!」

 と言う。

 先輩が手を振る方向を見ても、俺には呉井さんが見えなかった。ようやく知覚できたのは、それから数十秒後だった。瑞樹先輩、こんなに目が細いのに、どんだけ遠くまで見えているんだろう。

「遅くなりました」

 汗だくの俺たち男と対照的に、呉井さんは白のシャツワンピースにスキニーデニムを合わせ、なんとも涼しげな装いだった。

 というか、私服姿を見るのが初めてだ。制服のブレザーもよく似合うが、今日の服もとてもよく似合っている。髪型も、いつもは下ろしたままだが、今日は少し手間をかけ、編み込みになっている。可愛い。

「明日川くん?」

 はっ!

 ガン見していた。ここで「呉井さんの私服が珍しくて」と言う愚直なまでの正直さも、「呉井さんが可愛いからつい」と冗談めかして本音を言う勇気もない。必殺・話題転換をする他ない。

「いや。それよりさ、結局今日って、何をするの?」

 呉井さんは瑞樹先輩と顔を見合わせ、可愛らしく小首を傾げた。

「言ってませんでしたか?」

「聞いてないよ。瑞樹先輩と仙川先生には通じてたけど」

 そこまで言って、不意にいつものメンバーが一人欠けていることに思い至る。

「あれ? 仙川先生は?」

 同好会ゆえに、正式な顧問はいない。仙川が顧問のようなものだ。生徒だけの集まりなら気楽だが、先日の呉井さんの口ぶりだと、彼が重要な役割を担っているはずだ。なのに、仙川はこの場にはいない。

 恵美は別行動、と呉井さんは言った。そして腕時計を見て、「それではこれから二時間、ゲームを始めましょう」と宣言した。

 ……いや、だからゲームってなんだ?

15話

ランキング参加中!
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村 小説ブログ 小説家志望へ
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説家志望へ



コメント

タイトルとURLをコピーしました