臆病な牙(12)

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11話

「もう、はぐれちゃだめだからな」

 うん、と何度も大きく頷いて、少年は手を振りながら、その場を去って行った。ぼんやりと彼に手を振り返したままでいた冬夜の肩を、慎太郎がぽん、と叩いた。

「慎太郎……」

 冬夜の戸惑いに慎太郎はとうに気がついていて、ゆっくりと首を振った。

「あの子は、冬夜くんの優しさに気がついたんだよ」

 お面を取っても、少年にとって冬夜はヒーローだったのだと、慎太郎は静かに言った。

 ヒーロー? この俺が?

 怖い顔だと言われ続けたことが、凝り固まったコンプレックスになっている。人生経験を積んで、軽減されるかと思えば、より一層ひどくなるばかりで。

「僕にもわかるよ。君の目には、優しさが溢れてるって。あの子もそれを、感じとったんだよ」

 本当だろうか。子供や動物、それから元彼女にまで怖がられてしまうような目だ。

 疑いを抱いてじっと見つめる冬夜の視線に気がついたのか、慎太郎は苦笑しながら、「僕は嘘なんか、つかないよ」と言う。

「冬夜くんは、とても、優しい子。君のいいところを見ようとしない人のことなんて、気にしなければいいんだよ」

 そう言って、彼は冬夜の肩を引き寄せた。

 そのとき、ドォン、と一際大きな音がして、今日のクライマックスの花火が夜空に開き、散っていった。

 抱かれている肩が、熱い。力は込められていないので、振りほどこうと思えばすぐだ。でも、冬夜はそうしなかった。

「そろそろ……帰ろうか」

 ほとんど見ることがなく、花火は終わった。周りの人々は、ぞろぞろと帰路についている。冬夜は頷き、慎太郎の横に並んで歩く。こっそりと彼の横顔を窺った。

 こんなにきれいな顔でも、彼は子供に好かれない。慌てふためき、しゅんと肩を落としていた姿を思い出して、冬夜は思う。

 一見欠点がないように見えたとしても、実は皆、密かに気にしている部分があるのかもしれない。

「なんで、慎太郎はそんなに俺に、優しいんだ?」

 唐突な質問に、慎太郎は嫌な顔ひとつせずに答えた。

「言ったでしょ? 冬夜くんは優しいって。優しい人が辛い思いをする世の中は、間違ってるから」

 無理して笑わないでもいい。戦おうとしなくてもいい。そう、甘やかされている気がして、冬夜はなんだか、無性に泣きたい気持ちになった。

13話

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