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<40話
空気の澄んだ、真っ青な空が美しい朝だった。イラストのお手本のような雲が、ちらほらと点在しているのもまた、なんとなく気分がよかった。
待ちきれない様子でざわついているテント外の声を、飛天は目を閉じて聞いていた。視覚を遮断することで、耳はより鋭敏に音を捉える。
子供たちの笑い声や泣き声が元気に響く。進行役の女性が、マイクテストも兼ねて「ショーが始まっても、後ろのお友達が見えなくなっちゃうので、立たないで」と、注意事項をはつらつと伝えている。
自分の子に話しかけている親以外に、大人の声は聞こえないけれど、今日もきっと、多くの「大きなお友達」がシートの外から立って、自慢のカメラを構えているのだろう。
そしてその中で、最もショーを楽しみにしてくれている人がいる。
「飛天。そろそろ出番だよ」
次郎の声かけで、飛天は目を開ける。開いても、視界はヒーローの仮面のせいでごく狭い。この状態で、飛天はアクションをこなさなければならない。
「当たり前だろ。初のレッドだぞ」
ビシバシしごくという言葉のとおり、高岩はそれまで以上に厳しく、飛天に指導を行った。死ぬ死ぬ騒いだし、何度も悪態をついたが、高岩は全部聞き流して、飛天を一人前のヒーローにすることだけに、注力した。
きっとあれはパフォーマンスの一種でもあったのだろう。突然レッドに抜擢された飛天のことを、「次は自分が」と考えていた先輩たちは、よく思っていない。
高岩が本気で鍛え、彼に全力で飛天が応えたからこそ、今日共演する敵怪人役の先輩も、認めてくれたのだろう。
「大丈夫。何かあっても、僕がフォローする」
力強く言う次郎は、今日は飛天とともに、レッド役を演じる。
通常、ショーのときは事前に録音した声の演技に合わせて演者が動く。自身の肉声で演じるのは、メインの敵だけだ。彼らはショーの中盤、自らマイクを握って軽妙な独自のトークを展開し、観客の子供たちと絡む。
だが、今日は新たな試みとして、その場で飛天が演じるレッドに声をあてる。身体は飛天、声は次郎が担当することになっている。
「……頼りにしてるぜ、相棒」
拳を突き出すと、こつんと同じく握りこぶしがあてられる。
「二人でひとりのヒーローを演じるとか、仮面ライダーWみたいだね! 僕、フィリップがいいなあ」
次郎は照れたのか、そんな風に茶化してごまかしたが、彼の本心を飛天は知っている。本当は、嬉しくてたまらないのだ。
「なんだそりゃ」
飛天は深く突っ込まずに、次郎に応じる。まだWは見ていない。大きく伸びをした。外では進行役の女性が、最後の注意アナウンスを行っている。
そして。
「さぁ、いよいよショーの開幕です!」
その言葉と同時に流れるのは、オープニングテーマ。
飛天はタイミングを合わせ、颯爽とテントの外へ飛び出した。
>42話
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