高嶺のガワオタ(1)

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ライト文芸

 太陽が眩しかったから、人を殺したのは誰だっけ?

 いや、それとも芋虫になったんだっけか?

 朝日の眩しさに目を開けても、思考は上手く働かない。これは二度寝に励むほかない。

 品川しながわ飛天ひてんの朝は遅い。学生でもなければ、働いてもいないから、早く起きる必要はない。好きな時間に起きて、好きな時間に寝る。

 いわゆるニート。

 妹はこのカジュアルに使われるようになった言葉を嫌い、兄のことを「ごく潰し」と言う。なるほど、前者よりもだいぶぐさりとくる言葉だ。

 ただし飛天は、自分のことを引きこもりのニートだとは思っていない。傷ついた心を癒し、次のステップに進むまでの療養期間中だ。だから罵られようが、呆れられようが、ノーダメージなのだ。そう自分に言い聞かせている。

 ごろりと寝返りを打ち、うつらうつらしている時間は、心地がいい。長時間眠ってしまうと、夢を見て飛び起きることがある。飛天の眠りが浅いのを知っている両親は、息子が少々寝汚いぎたないのを黙認している。

 ただ家から出なくなった息子を、どう扱っていいのかわからないだけ、なのかもしれない。

 どちらにせよ、干渉されないのはラクだ。飛天は自分に言い聞かせる。

 今の自分は、自由なのだ。狭い六畳の自室の中だけの話ではあるが、それでも、他人の目に触れない場所が確保されているのは、ありがたいことだ。

 本格的な睡魔が襲ってきたところで、怪獣の足音が聞こえてきた。夢か現(うつつ)か。はたまた精神に異常をきたしたがゆえの幻聴か。

 現実だとわかっている飛天は、頭から布団をかぶり、やり過ごす体勢を取る。

「お兄ちゃん! 片付けらんないから、朝ごはん食べちゃってよ!」

 怪獣の名は、シナガワミオ……品川水魚みお

 この春、大学生になったばかりの妹は、容赦なくダンゴムシと化した兄を蹴り飛ばし、暴れるのだった。

2話

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