恋愛詐欺師は愛を知らない(4)

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3話

 薫の疑問は、デート当日に氷解した。待ち合わせ場所に現れた男は、とにかく顔がよかったのである。

 思わずまじまじと見つめていると、「静ちゃん? 俺の顔に何かついてる?」と、男は膝を曲げて、薫の顔を下から覗き込んだ。

 普通の男ならば寒いだけの仕草だ。けれど俳優かモデルのような遼佑がすると、様になっているのが、腹が立つ。

「いいえ……なんでもありません」

「そう? じゃあ行こうか」

 トークもそこそこに、遼佑はその長い脚で大股に歩き始める。薫はフラットシューズだからまだましだが、それでも丈の短いスカートを履いている。彼と同じように歩いたら、見えてはまずいものがチラリと見えてしまうだろう。

 まして、本物の女性であれば、ヒールが高い靴を履いていて、歩みは更に遅い。本当にモテるスマートな男であれば、ゆっくり歩くなり、腕を貸すなりするだろう。

 前途多難だな、と溜息をついてから、薫は小走りに遼佑を追いかけた。確か映画を見ると電話では言っていた気がするが、何を見るつもりだろう。一切、相談を受けていない。

 連れていかれたのは、駅から少し歩いたところにある、レトロなミニシアターだった。その時点で、「あ、こいつ本当に駄目だわ」と薫は呆れた。

 初デートに映画は、そもそも個人的にNGだ。人それぞれの好みがあって、ハリウッド大作やら話題の邦画であったとしても、相談は必須。趣味が合わないものを、二時間も見せられるのは地獄だ。

 さらに、ミニシアターの周囲には、いかがわしい看板の風俗店や、ラブホテルが点在している。明らかに、いいところのお嬢様を連れていくにはふさわしくない界隈だ。

 まさか映画もポルノじゃないだろうな、と内心疑っていたが、彼が購入したチケットは、古いフランスの恋愛映画だった。

 女はなんだかよくわからないけれど、おしゃれなフランス映画が好き。恋愛映画が好き。きっと、選択の基準はそのあたりだろう。

 ここにいるのが静じゃなくて、本当によかった。彼女はスプラッタ・ホラーばかり好んで見る。この手のジャンルは苦手なのである。

 なんとか眠らずに映画を見続けた薫だったが、遼佑が、開始三十分で眠りについていたのには、やはり腹が立った。選んだのはお前だろう、とよほど揺り起こしてやろうかと思った。

 遼佑は映画が終わると、あくびをしながら、喫茶店に誘った。彼はコーヒーを口に運びながら、自分の興味関心のある話ばかりする。

 遼佑の話にはちっとも興味を抱けない。薫は紅茶のカップについたグロスを指で拭いながら、さりげなく彼を観察することに努めた。

 全体的に清潔感を重視しているのが、見てとれる。髪の毛はやりすぎにならないように、自然にセットされているし、よく見れば爪も磨かれ、眉も整えられている。

 そうした手入れは、一歩間違えれば、男のくせにキモい、と言われてしまう。そうならないギリギリのラインを見計らって、自分の良さを際立たせるのが、遼佑は異様に上手いのだ。そして女は、そうやって、ある程度手を加えられた美形の男に弱い。

 加えて目の前の遼佑は、自分の顔をどこまで崩していいものか、ということも熟知している。過度に顔の筋肉を使うと、どんな美貌の人間であっても不細工になるものだが、彼のころころと変わる表情は、「可愛い」と思われる程度に抑えられている。

 ショーでは凛々しいチャンピオン犬が、飼い主の前でだけデレデレとだらしない姿を見せるように、遼佑は狙った女の前では、作り物の気障なものにならないように、親しみやすい笑みを浮かべるのだ。

 デートやアプローチの仕方は下手でも、顔とスタイルだけで、彼は十分にモテるだろう。そして彼の顔立ちは、見れば見るほど、薫の好みにも合致している。

 こっそりと薫は、舌なめずりをした。遼佑は薫の邪な目には気づかずに、だらだらとくだらない話を続けている。

 薫はバイセクシュアルで、男女ともに経験があった。可愛らしい顔立ちの薫を愛でたいという年上の男女は、後を絶たなかった。遊ぶ相手には困らなかったのである。

 遼佑は、顔だけなら及第点だ。頭の方は少々足りないが、好みの顔をおかずに食べる飯は、さぞ美味いだろう。

 その結果、薫は次のデートの約束を断れなかった。姉には「馬鹿でしょ……」と呆れられたが、そもそも考えてもらいたい。

 静のイメージを崩すことなく、遼佑を黙らせる手段など、薫には思い浮かばなかったのだ。

5話

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