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<4話
二度目のデートは、薫に多大な疑問を与える結果となった。
遼佑の方から「ショッピングに行こう」と誘ってきたが、彼は何も買わなかった。じっと見つめるだけで、店員から勧められても、笑顔で首を横に振っていた。
女子のファッションアイテムに興味のない薫も、特に買い物はしなかった。だからそのときは別段、不思議とは感じなかった。最初から、ウインドウショッピングのつもりだったのだろう。そう思った。
いよいよおかしいと感じたのは、ディナーのときだった。雰囲気のいい店で飲食して、会計の時になって、遼佑は鞄の中やジャケットのポケットを探った。そして、
「財布がない」
と呟いた。薫に対して話しかけているのではなく、独り言のように。
「え……」
何を言っているんだこいつは、という呆れをぐっと堪えた。
そもそもデートに来て、一度も財布を開かないことなど、あるだろうか。どこかのタイミングで、財布がないことに気がついたから、遼佑は買い物をしなかったのではないか。
でもそれなら、そのまま何も言わずに、ディナーに行くのは、ありえない。
一言、「今日財布を忘れたから、申し訳ないけどディナーはなしで」と謝ってくれたら、快く、「じゃあ私が出しますから、せっかくですし、行きましょう?」と言うことができたのに。
「……」
結局すべて食べ終えてしまった後だったので、薫が全額出すことになった。ごめんね、と遼佑は両手を合わせて謝罪したが、それもどこか計算めいた仕草で、いまいち釈然としない。
と、いうことを帰宅後、姉に愚痴がてら、報告した。最初はつまらなさそうに聞いていた静だったが、みるみるうちに顔が変わった。どこかで見たことがあると思ったら、般若の面だ。
静の行動は、素早かった。彼女は、椿山家が懇意にしている興信所を利用し、遼佑のことを密かに調べさせた。一週間もしないうちに、姉は彼の正体を突き止めていた。
「ほんとマジで最悪よ、あの男」
静が薫に突きつけた報告書には、遼佑のこれまでの悪行が詳細に書かれていた。
彼が付き合う女は皆、世間知らずで金持ちのお嬢様ばかりだった。男と付き合ったことのない純粋培養の女性たちは、顔がよく物腰も柔らかい遼佑に、心を奪われる。何せ彼は、彼女たちが憧れる、少女漫画の王子様にぴったりだったのだ。
しかし遼佑の目的は、金だ。直接金を巻き上げるわけではない。自分に恋をしている女たちに甘えて、ブランド物のアクセサリーや洋服、時計を購入させ、貢がせる。金に困ったら、それを質に入れる。食事も女にたかる。
表沙汰になったとしても、罪に問うことはできない。結婚していたわけでも、婚約していたわけでもない。
姉が言うには、「恋愛詐欺師」だそうだが、まさしく言いえて妙である。
別れ際はきれいで、女たちは一時の夢を見せてもらったと、感謝こそすれ、恨んだりはしていない。興信所の人間が話を聞いた、被害女性の一人は、夢を見るように微笑んだそうだ。
それならいいじゃないか、と薫などは思うのだが、静はそうは思わない。良家の娘という同じ立場であるからこそ、彼女は許せないのだ。椿山家の生まれじゃなかったら、こういう性格じゃなかったら、一歩間違えば、自分自身が被害者になっていたかもしれないからだ。
「女の敵よ! いい、薫!」
「は、はい……?」
鋭い目つきで睨みつけられると、薫は竦んでしまう。静はびしりと薫に指を突きつけて、命令した。
「懲らしめてやるのよ! いい? 夢中にさせておいて、こっぴどく振ってやるの! 男だってばらして、絶望させてやるがいいわ! ううん、ぼろ雑巾みたいに犯したって構わないわ! そうでもしないと、この手の男はわからないのよ!」
あんた男相手にも遊んでるんだから、できるでしょ。静は実に、人聞きの悪いことを言った。
悲しいことに、薫は長年の習性で、姉の命令を聞き入れてしまう体質になっている。
静としてデートを続けたのも、ベッドインのタイミングで男だとばらしたのも、姉の命によるものだった。
だが、「犯せ」というのはどうしても聞けなかったので、代わりに全裸写真を撮影することにしたのである。
>6話
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