恋愛詐欺師は愛を知らない(6)

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5話

 ホテルでの一件があった翌日、薫は湿布を貼った頬を押さえて、溜息をつき、教室のドアを開けた。

「はよーす」

 そう声をかけると、クラスメイトたちも「はよー」「おっす」と声をかけてくる。そして彼らは一様に、薫の顔を見てぎゃははは、と笑った。

「お前、その顔どうしたんだよ」

「美人が台無し~」

 湿布の下の頬はパンパンに腫れているし、唇の端も切れていることが一目瞭然だ。薫は、「うるせぇな」と舌打ちして、「殴られたんだよ」と自白した。

「へぇ! お前のこと殴るなんて、すげえ女だな!」

「あ? なんで女だって?」

「や~、だって昨日『デートだ』って言ってたじゃん? デートんときに彼女の気に障ることでも言ったんだろ。薫、顔の割にデリカシーに欠けるから」

「……うるさい!」

 図星を突かれた薫は、鞄を置くと、教室を出ていこうとする。

「どこ行くんだよ?」

「保健室! 一限休むって言っといて」

 ひらひらと手を振って、教室から出て行った。どうせ一限目は古文。得意科目だし、担当教師の声が妙に眠気を誘うので、出席しても居眠りするだけだ。それなら保健室で頭を冷やしがてら、ベッドの上にいたって同じだろう。

「おはよございまーす……」

 一階の職員室横に、保健室はある。朝一番にやってきた薫の顔を見て、養護教諭は、「あらまぁ」と目を丸くした。

 患部がきちんと手当がなされていることを確認した彼女は、

「何をそんなに、彼女を怒らせるようなことをしたのかしら?」

 と、余計なお世話を言った。教師にしても同級生にしても、薫が顔に傷を作る=女絡みと直結するあたり、どういう思考回路をしているのだ。

 痛いなら冷やしておきなさい、と水枕を出して、養護教諭は職員会議へと向かった。当初の目的どおり、薫はごろりとベッドの上に横になった。

 じくじくと痛む頬を押さえて、薫は昨夜のことを、苛立ちとともに思い出していた。

7話

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