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<13話
バラ、と一口に言っても、色も形も様々だ。同じ赤でも濃い色薄い色、小ぶりな花に大輪の花。バラと言われてイメージするゴージャスな形ではなく、花弁の数が少なく、可憐にしとやかに咲く花もある。珍しいところでは、天井から吊るす、くす玉めいた八重咲きのものもある。
香貴はその中でも、色が濃い赤のものを好んでいた。あと、ピンクも結構好きで、よく選んでいる。形は残念ながら、店で仕入れるのが「バラ!」という感じのスタンダードなタイプばかりなので、バリエーションに乏しいが、特に注文をつけられたことはないから、好きなのだろう。なんだかんだ付き合ううちに、彼の好みがわかるようになってしまっていた。
質感や形、大きさの違うバラをパッチワークにする。メインは赤だ。全体の形状が、遠目で見ると大きなバラの花に見えるようにするのに、かなり苦戦した。もともとこういう作業は、店を継いでから本格的にやり始めたので、今も修行中の身である。ブーケやアレンジメントを担当するのは、主に母だ。
母は見ているだけで、手を出してこない。涼も、文句を言わなかった。自分の手で彼のために花を活けることが、大事だ。
ようやく完成したときには、時間ギリギリだった。母と二人で慎重に車に運び入れ、劇場へと向かう。
辿り着いたロビーは、すでに花畑になっていた。やはり香貴宛のスタンド花にはバラの花が多い。隣の花との差別化を図るべく、風船や羽で飾り立てたり、中には似顔絵イラストまで使い、主張し合っている。
出遅れた涼たちに残された場所は端だった。本当は、もうちょっと目立つ場所がよかったが、仕方ない。手早くスタンドを設置する。車の揺れで形が崩れた部分は直して、涼は自分の作品を見つめた。
「よし!」
いい感じだ。真っ赤な塊は十分に個性を主張している。隣のキラキラしたモールで飾られたスタンドにも負けていない。きっと香貴は、喜んでくれるだろう。振り返ると、母も満足げに頷いて、親指を立てた。
>15話
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