迷子のウサギ?(35)

スポンサーリンク
BL

<<はじめから読む!

34話

「ふんふふふんふんふんふーん。ふふふふふんふんふー」

 いよいよクリスマス。テンションが上がったポチは、先日ホームセンターで笹川が購入してきたクリスマスツリーの飾りつけを、鼻歌を歌いながら行っていた。

 クリスマスケーキもインターネットで画像を見ながら「これ」とポチが指さしたものを予約済みだし、チキンもある。去年までの自分とは違う。去年はクリスマスもお正月も何もなく、笹川は仕事をしていたし、ポチはポチで、帰ってきた笹川に「お仕置き」してもらいたくて悪戯を繰り返していた。

 今はもう、その行為が「お仕置き」ではなくてたっぷりの愛情に包まれて、ポチからも笹川に愛情を渡すことなのだと知っている。ポチはぽん、と頬を可愛らしく染めた。今日もきっと、するんだろうなぁ、なんて考えながら「きゃー!」と作った輪飾りを抱きしめて思わずぐちゃぐちゃにしてしまった。

 笹川は近くのスーパーに飲み物を買いに行った。シャンメリー、という名前のそれを「楽しみにしていろ」と言い置いて行った。きっととても甘いんだろうなあ、とにこにこしていると、聞き覚えのあるメロディが耳についた。

「ん?」

 この音は、ときょろきょろ探すと、テーブルの上に笹川のスマートフォンが忘れられていた。最近の浩輔はちょっとうっかりさんだなあ、とポチはおかしくなって笑う。このメロディは、メールなどではなくて、電話だ。

「……」

 ポチはしばらく震えているそれをじっと見ながら、諦めて止まってくれるのを待ったのだが、電話の相手は諦めが悪いらしい。

「もうっ」

 浩輔はいないの! とぷんぷんしながら、でもポチが電話に出ることは許されていないから、とりあえず誰からの着信なのかを確認しようと画面を見て、「あれっ」とポチは首を傾げた。表示されている名前はポチも知っている人の名で、これなら出てもいいんじゃないのかな、と、数刻前に笹川が出て行った扉へと視線を向け、意を決して手を伸ばした。笹川が扱っているのを見ていたから、なんとなく使い方はわかる。

「緑を押して……」

 通話状態になったので、「もしもーし」と言う。電話は初めてで、ドキドキする。けれど向こうからかけてきたのに、一向に話しかけてこない。不思議に思ってもしもし、もしもし、を連発していると笹川がビニール袋を両手にした状態で戻ってきた。

「あ、浩輔」

「あ、浩輔、じゃない。スマホは弄るなって言っているだろう?」

 眉を顰めている顔もきれいだなぁ、と一瞬ポチは見惚れたが、そんなことをしている場合ではないとはたと気がついて、言い訳をする。

「ごめんね。でも、ウサオからだったから、出ても大丈夫かなって。ずっと鳴ってたし」

「ウサオ?」

 何の用事だろうか。笹川は首を捻る。この間は断ったけれど、やっぱり一緒にクリスマスパーティーをしませんか、というお誘いかもしれない。それならそれで、こちらで注文をしたチキンやケーキを向こうにそのまま持ち込めばいいだけの話だ。買ったのとウサオが作ったのの二つもケーキがあるとなると、ポチが喜びすぎて、食べすぎて腹を壊す未来しか見えないが。

 ポチから電話を受け取って、笹川は「ウサオ?」と声をかけた。返事は返ってこない。おかしい、と笹川は眉間の皺を一層深く刻む。

 スマートフォンならばポケットに入れておいた端末が何かの拍子に誤動作が起き、履歴や電話帳から意図せずに発信してしまうということが往々にしてありうる。

 だが笹川がウサオに持たせたのはガラケーと呼ばれる二つ折りの携帯電話である。自分の意志によって番号発信をする他にない。

 だからウサオは、笹川に何か伝えたいことがあるのだ。

「ウサオ? ウサオ? 大丈夫か?」

 笹川の声に、ポチも「きゅーん」と鼻を心配そうに鳴らして「ウサオー」と声を上げる。

 ようやく聞こえてきたのは、明瞭な言葉ではなかった。ひっく、としゃくりあげた泣き声に、笹川は内心驚く。

「ウサオ? 泣いてるのか?」

 答えはない。だがひっくひっくという音と鼻を啜る音だけが聞こえた。大学も、もう休みになっているだろうし帰省する予定はないと俊は言っていたから、おそらくウサオの傍にいるのだろうと思って「三船は?」と問いかけると、ウサオの泣き声は激しくなった。

「う、あぁ……うっ、うう……ぐっ、ふ……」

 喧嘩でもしたのだろうか。だが初対面であれだけ剣幕だった二人だ。喧嘩の一つや二つくらい、今更だろう。

「ウサオ?」

 殊更優しく問いかけた笹川に、ようやくウサオは人間の言葉を返したのだった。

36話

ランキング参加中!
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村 小説ブログ 小説家志望へ
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説家志望へ



コメント

タイトルとURLをコピーしました