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<54話
文字通り飛んで戻るなり、シルヴェステルはベリルを寝所に連れ込んだ。カミーユたちに帰還の報告をすることもなく、性急に彼の部屋まで引っ張っていって、ベッドに押し倒す。
「ちょっと、陛下……んむっ」
唇に噛みついて、舌先を触れ合わせる。口内の甘さを、抗議の声とともに味わい尽くす。
「んん……っ、あ、もう!」
キスだけで十分も二十分も過ごせそうだったが、ドンドン、とやや強めに背中を叩かれたので、渋々解放した。
宝石のような目はキラキラと涙の膜が張って輝いている。吸われすぎて赤くなった唇はぽってりと赤く、まだ舌に残る甘みを思い出して、再び口づけようとすると、さすがに両手で押しとどめられた。
「いやか?」
あまりにも強固に口を防御するものだから、シルヴェステルは首を傾げる。
「キス、だけじゃ」
遺跡でお互いの気持ちを確認し、空中でのデートの間も、いろいろな話をした。
ベリルが生きていた時代のこと、おそらく竜王の妻となっただろう、彼の主だった王女のこと。二号としか呼ばれることなく、王国と運命をともにした、弟のこと。
饒舌に語るのは、数万年の空白の時間から目を背けたいからだと、シルヴェステルにはわかっている。そしてその孤独を埋めることができるのは、自分だけ。同じく孤独な生き物である、竜王だけだと感じた。
最近は、城の復旧や制度改革などで二人とも多忙で、ベッドは眠るためだけに使っていた。それに、カミーユとのことを勘違いして嫉妬して、ベリルのことを一方的に嬲ったのは数に入れたくはない。
久しぶりのことだからか、どうも自分は緊張しているらしい。
ベリルの着ているシャツのボタンを外そうとして、指がもつれて何度も失敗する。不器用な子供みたいだと思うと余計に焦って、上手くいかない。
これまではどうしていたのだろう。理性を飛ばしていたから、何も覚えていない。
しばらく見守っていたベリルは、ふっと微笑んで、シルヴェステルの手を止めた。そして自分でボタンを外し、上半身を曝け出す。
白い肌に釘づけになる。傷ひとつない皮膚。手のひらを腹に押し当てる。滑らかな手触りは、本当に兵器なのかと疑わしいほどだ。
「シルヴィ」
くすぐったいのか、ベリルはくすくすと声を上げて笑い、シルヴェステルの頬に手を伸ばした。
「やっと俺のこと、見てくれた」
いつだってお前のことを見ている。
言いかけて、口を閉ざした。閨房の中では、一度だって彼をまともに見ることがなかった。表情で仕草で、ベリルはシルヴェステルへの想いをこんなにも表しているというのに、見過ごしていたことを、心から悔やんだ。
心が深く繋がったと確信できた今、シルヴェステルが竜の本能のままに彼を犯すことはない。
意識がまともな状態でするのは、初めてだ。初心で清らかな少年のようにまごつくシルヴェステルに、ベリルは身体を起こした。それから、シルヴェステルの下肢へとそっと手を這わせた。
>56話
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