平行線上のアルファ~迷子のオメガは運命を掴む~(51)

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50話

 緑色の鳥居を背に、日高たちはボートを漕ぎ出した。

 二人の始まりの場所に眠る女神への感謝を表し、神社に参詣しにきたのだ。

 力強くオールを操る早見は、「そういえば」と、あちらの世界の紅蓮湖にまつわる伝承を教えてくれた。翡翠湖神社の縁起物語とほとんど変わらない話であり、諦めない者の味方という、なんともざっくりとした御利益を掲げていた。

 もしかしたら、早見と出会った第二性のない世界は、紅蓮湖の神が愛する姫のために作り上げた世界なのかもしれない。

 翡翠姫が輿入れするために、屋敷を離れてからも、彼は諦めなかったのだろう。そして彼女の死後も、二人が永久に、ともに寄り添っていられる世界を求めた結果が、あの世界だとしたら……。

 そんな日高の夢物語を聞いて、早見は楽しそうだった。

「日高は、物語を創る才能があるよ」

 他の誰かに言われたのなら、からかわれていると思っただろうが、相手は売れっ子作家である。そんな彼に褒められれば、悪い気はしなかった。

 早見は黒崎の家には入らなかった。相続やら何やら、すべてを放棄して、今もなお、早見岳を名乗っている。

 黒崎一族には、面倒なしがらみ、人間関係がついて回る。こちらの世界に来たところで、人付き合いが上手くなるわけじゃない。

 幸い、彼の書いた小説はこちらの世界でもすぐに受け入れられそうだった。これもまた、友威の伝手である。日高ともども、頭の上がらない相手となりそうだ。早見は少しだけ、苦々しい表情を浮かべて、友威のことを褒めた。

 湖を岸につけ、ボート小屋に返した。ともに暮らしたコテージは、こちらの世界では誰かが別荘として所有していて、仕方なく早見は、都会に居を構えることになった。日高のアルバイトのこともあるので、不本意ながら、という形である。

 手を繋いで歩いていると、幸せと同時に罪悪感に襲われる。

 逃げ出したことで、日高はあちらの世界の自分を消してしまった。その自分が、運命の恋人と出会い、番として結ばれて、心穏やかに生きていることに、常に申し訳なさがつきまとう。

52話

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