平行線上のアルファ~迷子のオメガは運命を掴む~(1)

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平行線上のアルファ

 逃げ切れなかったら、どうしよう?

 ここまで乗ってきた車は、分岐のない山道にさしかかったところで乗り捨てた。そのまま道なき道へと入り、藪を掻き分けて山を登る。

 獣道とはよく言ったもので、クマとの遭遇を注意喚起する立て看板が、半分朽ちた状態で傾いていた。

「っ」

 薄暗い夕闇は、日高の姿を追っ手から隠してくれるが、その分自分も辺りが見えなくなる。鋭い枝でいくつものひっかき傷ができ、気づかずに蚊柱へと突っ込んでいく。

 心臓が、耳の真横で鳴っているような気がする。

それでも日高は、歩みを止めるわけにはいかなかった。体内の熱を逃がそうと、なるべく深く息を吐く。

 ポケットの中の二種類の錠剤のうち、一方は、助けに来た親友が、自動車とともに差し入れてくれたものだ。

 先程飲んだのは、何時頃だっただろう。連続して飲むような薬ではないのだ。

 もはや時間の感覚もなく、日高は震える指でシートから白い薬剤を押し出し、水なしで無理矢理飲み下した。

 効果が出るのを待っている暇はない。チリチリと微かな疼きを訴えるうなじを押さえた。長めに伸ばした髪の毛と、フードのある服でなるべく隠しているそこは、日高の最大の弱点である。

 うなじを噛まれれば最後だ。自由な生活はなくなってしまう。子を産み、育てるだけの生活が待っている。オメガにはそういう生き方しか、許されていないのだ。

 法律で保証されたオメガの人権は、実際の現場では何の役にも立たない。法を定めているのはアルファで、行使するのもまた、その多くがアルファだ。この世はとかく、彼らに都合のいいように出来ている。

 高校卒業前に母が死に、それからはひとり、アルバイトでどうにか生計を立ててきた日高には、社会の世知辛さが身に染みていた。

 幸い、今のバイト先の店長は妹がオメガということもあって、日高の面倒なシフト調整も、文句ひとつ言わずにしてくれている。以前のバイト先は、もっとひどかった。思い出したくもない。

 数人いた同級生のオメガたちは、卒業後、すぐにアルファの元に嫁いでいった。親同士が決めた相手だ。顔も知らない相手と結婚したくないと言っていた彼女たちも、最終的には屈した。

 諦めきった空虚な笑顔で、あくまでも抗おうとする日高を諭した。

 結局私たちは、アルファの元に身を寄せるのが、一番幸せなのよ……。

「はぁ……」

 ようやく熱が引きつつある身体を引きずり、開けた場所を目指す。

 逃亡者である日高の目的地は、湖。ひいてはそこに浮かぶ小島にある、神社だった。

2話

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