平行線上のアルファ~迷子のオメガは運命を掴む~(14)

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13話

「一緒にご飯を食べてみて、どうでしたか?」

 日高との約束は、朝と夜の二回だった。昼は仕事が立て込んでいれば、彼は部屋から出てこない。

これまでは、食べずに過ごすことも多かったようだが、日高は自分のついでに用意した。扉をノックして、反応がなくても勝手に入り、そっと置いて出てくる。

 最初の五日間は、別々だった。けれど、早見は昼になると部屋から出てくるようになった。驚いたけれど、三食ともにすることに、日高が否やを唱えるはずもない。

「これが好きだと君が言う度に、俺も好きになる気がした。美味いとは思っても、好物なんてもの、なかったのに」

 食事は栄養で身体を満たすだけの行為ではない。

早見は日高との生活の中で、その本当のところを、実感し始めた。

「俺には、家族がいない」

 きゅう、と胸が締めつけられた。直接尋ねることはなくとも、すでに予想されていた答えだった。

「君も似たようなものだろう」

 日高は頷かなかったが、早見の言には確信が籠もっていた。

 錯乱したときに、おそらく何か口走った。突っ込まないでいてくれるのは、早見の優しさだ。

「俺たちは家族じゃないけれど、ともに暮らしている。同居人に何かをしてあげたい、一緒の時間を過ごしたいと思うのは、おそらく一歩先の感情なのだろう」

 と、俺は思う。

 恥ずかしげに付け足された言葉。どう捉えればいいのかわからずに困惑している日高の頭を、大きな掌が撫でた。

 身構える隙もなかった。こんな大男に触られるなんて、これまでの自分だったらひどい嫌悪感に襲われて、即行でぶち切れていた。何ならそれが原因で、バイトをクビになったことさえある。

 不器用だと予防線を張ったわりに、彼の手つきは繊細だった。心臓の高鳴りは、衝動的な嫌悪とは対極にある。

「一歩先って……」

「……子どもには、こういうものを買い与えたくなるってことさ」

 名残惜しく離れていく手に、あ、と思う。口に出さなかったのは、わずかな自制心の賜物だ。

「って、子どもってなんですか! 俺は来年、二十歳ですよ!」

 子ども扱いされたことへ唇を尖らせたのは、もっと撫でてほしいという本心をごまかすためだった。

早見は笑う。

「子どもは言い過ぎたな。じゃあ、兄からのプレゼントだと思って、受け取ってくれ。ソフトは適当に、ダウンロードしてくれていいから」

 言い置いて出て行く早見の背を見送って、日高は自分の髪を撫でつけた。頬の熱を逃がすように、手の甲で触れる。

 居候や同居人よりも、一歩先にある感情。

 早見の気持ちは、家族への愛情だ。

 家族に恵まれないのは自分も同じ。去年までは母親と二人暮らしだったが、彼女との生活は、一般的な家族生活とは程遠かった。

 他人である早見との暮らしの方が、よほどイメージの中の家族に近い。だからこそ、戸惑いもあれば、高揚することもある。

 日高の中に淡く生まれた、期待とも恐れともとれる感傷は、早見の想いと同じもの。

 そうじゃなきゃ、早見も日高も、困る。

「……テレビ、見てみよっかな」

 わざわざ声に出してから、日高は電源を入れた。

15話

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