6 純白に波立つ(5)

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6-4話

朝、目を覚ましても味噌汁の匂いはしなかった。ぐちゃぐちゃになったシーツの上に、乱れに乱れたセーラー服の千尋は眠っていた。

 靖男の精液でパンパンに膨らんだコンドームは、床に打ち捨てられていた。零したらやばいな、と思ったので拾ってゴミ箱に入れる。使用済みのティッシュの類も。

 ローション代わりに使ったはちみつの瓶は、ほとんど中身が残っていなかった。千尋の母が彼のことを想って送ってきたことに対して、少しの罪悪感を覚えて、ああ、まだ自分にも優しさが残っていたのだな、と自嘲した。

「ん……」

 脱ぎ捨ててあったTシャツやパンツを拾って身に着けていると、千尋が呻き声をあげた。むくりと起き上がると、ぼんやりとした目をしぱしぱと瞬かせ、ようやく意識まで覚醒し始める。

 ぐるん、と千尋は靖男を見た。そこで彼は、ようやく昨夜のことを思い出して、顔を赤くしたり青くしたりとせわしなかった。

「なんで……」

 掠れた声で問われ、「さぁ、なんでだろうな」と靖男はあっさりと言った。聞かれても答えられない問いだ。怒りと嫉妬と、独占欲、欲情と。全部が混ざって、靖男は千尋のことを犯した。

「俺、は、あんなこと、したくなかった!」

 ぶわ、と千尋の目から涙が溢れた。あんなこと、とセックスを指した。

「あんなことって、セックス?」

「せ……! そ、そう、だけど!」

 きれいな花みたいな顔を真っ赤にして「セックス」という単語にさえ照れるのは思春期を脱し切れていないように思われた。事実、小学生のときに女装姿のまま憧れの女性に手コキされて発射した、あの頃から千尋の性的な熟成度はまったく深まっていないのだろう。

「フェラしたり素股されたりすんのは平気なのに、セックスはなんで駄目なんだよ」

 その二つの行為の延長線上に、セックスはある。

「女装して、本当はこうされたかったから、俺のこと家に上げて、誘惑したんじゃないのかよ」

 靖男は床に落ちたショーツを拾って投げつけた。どっちを見たい? なんて聞いてきたのは紛れもなく誘惑だった。苛立っていたこともあるけれど、一番の理由は千尋が誘ったからだ、と靖男は責任転嫁する。

 パシン、と頬に衝撃を受けた。千尋に今までひどいことをたくさんしてきた自覚はあるが、彼はいつも困ったように微笑んで許してくれた。殴られるのは、初めてのことだった。

「俺は、女の子になりたい訳じゃない!」

「嘘だ」

「嘘じゃない!」

 たとえ嘘じゃなかったとしても、自分でも気づかない無意識の領域ではどうだ。女装をしながらAVを見て、女優に感情移入をして興奮していたんじゃないのか。だから靖男が手を出したときも、驚きながらも受け入れたんじゃないのか。

「俺は、神崎のこと、本当に……友達になれたと思っただけなのに」

 俺もそう思いたかったよ。

 でも最初から、根本的に自分たちの関係は間違っていたのだ。自分の秘密を白状したことで千尋は心を許し、友情から身体を靖男に預けた。靖男のことをよく知りもしないくせに。

 千尋の女装癖を暴いてしまった日、口での奉仕を強要した日から、靖男は間違いっぱなしだ。千尋が欲しいのは友情の証だったが、靖男には与えてやることができない。

 ぽろぽろと千尋の目から零れる涙を拭ってやりたい衝動に駆られたが、靖男は自分にそうする資格がない。今更謝っても許されないから、わざと嫌われるようなことばかり言う。

「神崎……しばらくうちに、来ないで」

 千尋はそう言ったきり、顔を伏せて泣いた。本当に、千尋は優しい。二度と、とは言わなかったのだから。

7-1話

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