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<15話
ベリルは大広間の外にいた。中から漏れてくるのは、シルヴェステルの凜と張った大きな声のみである。いつもは小うるさい(らしい。シルヴェステルはよく、ベリルやカミーユに愚痴を言う)貴族たちも、公式の場ではおとなしく、竜王の話を聞いている。
シルヴェステルの話は端的だった。開会の宣言の最後に、彼は少し声のトーンを落とした。
「開会の前に、紹介したい者がいる。我が妃である」
貴族たちはにわかにざわめいた。後宮にベリルが住み着いたのを知っているのは、本当に限られた一部の者だけだ。じっと耳を澄ましてみるが、好意的なものではない。人間族だと知った瞬間、自分へと悪意と好奇は押し寄せてくるのだろう。
ベリルは緊張をほぐすため、深呼吸をする。
大丈夫。やれることはすべてやった。
貴族名鑑を丸暗記して、会話の糸口も考えた。この国の常識も、上流階級のマナーも、カミーユに太鼓判を押されている。
それに、会場では常に、シルヴェステルが隣にいてくれる。答えに窮したとしても、彼が支えてくれる。だから、堂々と立てばいいのだ。
「こちらへ……ベリル」
ベリルは開放された扉の中へと足を踏み出す。好奇の視線が刺さるのを敏感に察知するが、背筋をぴんと伸ばし続けた。ナーガから譲り受けたローブは、大胆に改造が施され、出家者のものとは思えない豪華さだ。銀糸と宝石に彩られ、ベリルを妃として演出してくれている。
シルヴェステルの元へと歩み出て、彼の差し出す手を取った。会場の貴族たちをぐるりと見回して、習ったとおりの礼をする。
「ベリルと申します。伴侶として、皆様と同じように竜王陛下を支えていきます」
一瞬の空白の後のまばらな拍手は、ベリルを歓迎してのものではない。立派な体躯の竜王と並ぶのに、人間の身体は貧弱すぎる。彼らはベリルを、無教養で学のない妃だと侮るだろう。攻撃材料として、裏でこそこそとシルヴェステルのことを馬鹿にするに違いない。
させるものか。
ベリルはにっこりと微笑んだ。
>17話
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