神崎靖男のバイト先である大型の新古書店には、定期的に宝箱が届けられる。
「おい、神崎。来たぞ」
「え、マジで。休憩中に見る見る」
そんなやりとりを女子店員たちは軽蔑しきった目で見ているが、仕方がない。インターネットを探せばごまんとエロ動画が存在する昨今、それでもやはり、パッケージ化されたアダルトDVDの魅力というのには抗えない。特に、堂々と一八禁ののれんがかかった場所に入ることのできる年齢だが、身長の低さと見た目の幼さから止められることが多い、靖男にとっては。
当然売り物なのだが、社割が効くので正規料金よりははるかに安い。店に出す前にあれこれと物色するのがお決まりになっている。人気のある女優やジャンルは早い者勝ちだが、靖男にはあまり関係ない。
休憩時間のかぶっていた同僚と一緒に箱を覗いた。まだまだたくさん残っている。口笛を吹いて喜びを表現すると、休憩室にいた女子がこれ見よがしに溜息をついた。
「ほんと、男って馬鹿で、スケベで……」
靖男たちはそのぼやきを黙殺した。箱の上の方にあったものは一目見て好みではなかったので除ける。そうすると隣で一緒に見ていた同僚が、「お前投げてんじゃねえよ!」と靖男の頭を小突いた。
箱の下の方から引っ張り出したDVDのパッケージを確認して、靖男はにんまりと笑った。
「俺、これにするわ」
靖男の手の中のDVDのタイトルを見て、同僚は「お前ほんっとにそういうの好きね……俺にはわからん」と言った。
「なんだよー。いーじゃん、でっかい子。可愛いじゃん」
この場合のでっかい子、はおっぱいのでっかい子、ではない。胸はあるにこしたことはないけれど、靖男の中の第一条件ではない。
文字通りの「でっかい子」。すなわち、身長の高い女子というのが靖男の好みであった。手にしたDVDには『一七八センチ、バレー選手が魅せる! 恥じらいエッチ』というタイトルが躍っている。我ながらニッチな性癖だよなあ、とは思うが、売られているということはどこかにお仲間がいるのだ。
同僚は悩んだ末に、人妻モノと女子高生モノという両極端なジャンルを選んでいた。
「お前ストライクゾーン広いな」
そう言うと、
「ちげえよ! 俺はおっぱいが大きい子が好きなんだ! そこに若さは関係ない!」
と怒鳴られる。いつの間にか同じ部屋にいた女子店員はいなくなっていたからこその音量だったが、この至近距離で「おっぱい! ビバおっぱい!」と叫ばれるのはたまったものではない。
神崎取り置き、と書いたメモを貼って、靖男も逃げ出した。どうせもう、休憩時間も終わる。
>1-2話
コメント