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<11話
「日高。ちょっと」
今日は家政婦と宅配と両方が来たので、部屋に鍵をかけて閉じこもっている時間が長かった。家政婦が仕事をしている間、ベッドの上で小さくなって、息を潜めていた。
外で、「こちらのお掃除、最近してませんけど……」という女性の声が聞こえたときは、ドキドキしてしまった。早見がうまく話をつけて、会話は遠ざかっていき、肩から力を抜いた。
配達のトラックの排気音がしなくなったのを確かめて、早見の呼び声に、ようやく日高は部屋から顔を出す。
「手伝いますね」
買い込みすぎた段ボールを運ぶこと、荷分けをすることは、早見の役に立てる仕事のひとつであった。
いそいそと出ていくと、早見は段ボール箱をふたつ、日高の部屋に運ぶように指示をした。
新しい本だろうか。ついこの間も、重い段ボールを運び入れたばかりだ。
日高の予想は外れる。持ち上げたところ、書籍とは思えなかった。彼が本を購入するとき、その重さはとてもじゃないが、一人で二階になど運び上げられないのだ。
中身はなんだろうと不思議に思っていると、もうひとつ、大きく重そうな荷物を押してきた早見が、さっそく箱を開けた。
「今日はこれをセッティングするのを手伝ってくれ」
「これって……」
薄型のテレビだった。独り暮らしの学生の部屋にありそうな、小さいもの。それから早見が持ってきた箱は、テレビを置くための台だ。
日高が我がままを言ったわけではない。居候の身で、いろいろ買ってもらうのも気が引けて、最低限の身のまわりの品しか買ってもらったことはなかった。
テレビなんて、一階のリビングダイニングにすらない。早見自身は必要としていないものだから、余計に恐縮した。
「こんな高いもの、俺なんかに」
「なくても困らないものは、あっても困らないものだ。これまで持っていなかったのはたまたまだから、気にするんじゃない」
最後の一箱に至っては、明らかに早見にとっては不要な、家庭用ゲーム機である。ソフトが見当たらないことを言うと、
「イマドキのゲームは、ネットでダウンロードするんだ」
と、知ったようなことを言われた。
たぶん、今回購入を決意して調べたのだろう。
付け焼刃の知識を得意げに披露するのは、顔に似合わず子供っぽかった。思わずにやにやしていると、早見が声をかけてくる。
「ほら、こっちのテレビ台の組み立てを手伝ってくれ」
コテージの家具は、ほとんどが備えつけのもので、早見が購入したときにはすでに組み立てられ、ちょっとやそっとの地震があっても倒れないよう、頑丈に固定されていた。
日高の部屋の壁を埋め尽くす本棚は特注で、これも工務店に作ってもらったものであった。
荷物の少ない男の独り暮らしでは、それ以上、収納を買い足す必要性がなかった。棚に入らない本は、積んでおけばいいと思っている節がある。
カラーボックスひとつ組み立てたことのない早見の手つきは、覚束ない。
ちっとも簡単じゃないじゃないか。
ぶつぶつ言いながら、組み立て説明書と実際の部品をにらめっこしている。
日高は今度こそ声をあげ、笑った。
>13話
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