平行線上のアルファ~迷子のオメガは運命を掴む~(11)

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10話

 人の気配がある食卓を、日高は早見に拾われてから、久しぶりに味わっている。

 母が生きていた頃も、日高はひとりで食事を摂っていた。支度はかろうじてしてくれたものの、勝手に食べろと放置されていた。美味しいと告げることさえ、憚られた。

 仕事の電話を続ける早見は同じ空間にいるが、だからこそ、ひとりで食べる虚しさが強調される。

「はい、それでは。失礼します」

 仕事の電話を終えた早見は、日高に視線を移した。思ったよりも箸が進んでいないのを見て、「口に合わないか?」と、眉根を寄せている。

 日高は首を横に振る。ぼんやりしていたのは、家で誰かと食事をした日を思い出そうとしていたからだ。

もっとも、あまりにも遠い昔のことで、記憶の片隅から掘り起こすことはできなかったが。

「それならいいが」

 安堵した早見が、仕事に戻るべくその場から離れようとした。日高はその背中に、思わず、

「待って」

 と、声をかけていた。

「どうした?」

 引き留めたわりに、何も話そうとしない日高を早見は不思議そうに見つめている。日高自身、この気持ちをなんと表していいのかわからない。口の中でもごもごしているだけの日高を、早見は辛抱強く待ってくれた。

「その。俺やっぱり邪魔ですよね。早く帰れる手段、見つけますから」

 早見は、ひとりの気楽な暮らしの方がいいのだろうと、気を回した。家の中に人がいると露見してはならない生活は、彼の負担になる。

 早見は向かい側の席に腰を下ろした。ゆっくりと首を横に振り、「邪魔だったら最初から、助けない。警察に通報して、それっきりだ」と言う。

「迷惑かけてるかわりに、本当は俺が、家事とかしようと思ってたんです」

「そんなことをさせるために、君を助けたわけじゃないぞ」

 見返りを求めない態度は、人として立派であるが、日高の気が済まない。

「それから、他にも何か言いたいことがあるんじゃないのか?」

 早見には、すべてお見通しだった。

 子どもっぽい我が儘だ。言うのを迷ったけれど、意を決して日高は口にした。

「食事中ひとりなのは、寂しいです……お仕事の邪魔はしたくないですけど、二人で暮らしているのに」

 こちらの世界では、話ができる相手は、早見しかいない。彼が仕事に集中しているときは、邪魔をしたくない。

 必然、ともにいられる時間は限られる。基本的には、食事の時間だけなのだ。

「俺は早見さんと、おいしいって言いながら、食事をしたいです」

 日高は言って、口を噤んだ。早見の反応を窺う。彼は目を瞬かせたかと思うと、「気づかずに、悪かった」と頭を下げた。

 丁寧に謝罪してもらうほどのことではなく、日高はぶんぶんと手を横に振って、顔を上げてもらった。

「久しぶりに人のいる生活をしているから、そんな基本的なことさえ忘れていた」

 孤独な暮らしをしていたのは、お互い様だった。仕事の付き合いでの外食は別にして、日常的に食卓を囲む相手は、早見にもいない。

 彼は日高と約束を交わした。朝と晩の食事は、できる限り二人で食べる。ただそれだけの些細なことだが、日高にとっては非常に喜ばしい、第一歩である。

「今日は俺はもう食べてしまったから、君が食べ終わるまでは、ここにいよう」

「はい。ありがとうございます」

 優しいまなざしに見つめられて、少し照れくささを覚えながら、日高は付け合わせのブロッコリーを口に運んだ。

 美味しいと笑うと、自分が作ったわけでもないのに、早見は「そうか」と重々しく相づちをうつものだから、なんだかおかしかった。

12話

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