断頭台の友よ(29)

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十字架 ライト文芸

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28話

 早馬を走らせ、屋敷の前に辿り着いてから、クレマンは自分の浅はかさに舌打ちをした。今日はオズヴァルトがいない。約束をしていないクレマンに、彼らは会ってくれるだろうか。

 とっぷりと日が暮れており、今頃は食後のお茶の時間を過ごす頃だ。クレマンの腹の虫が、空腹を思い出して鳴いた。診療所を閉めてから取るものもとりあえず馬をとばしてきたし、週に二回しか開かない分、患者が集中するため、昼もほとんど食べていなかった。

 大事な話をしているときには鳴いてくれるなよ、と胃のあたりを摩り言い聞かせ、クレマンは扉をノックした。

 しばらく待っていると、やってきたのはバロー邸の使用人頭の男であった。そこそこ洗練された仕草ではあるが、貴族宅にいる本物の執事には敵わない。男は迷惑だという感情を隠しきれていない。

「お約束は?」

 首を横に振る。使用人頭は、扉の前から動くつもりはなく、「お引き取りください」と威圧してくる。一対一で交渉をして、勝つことができるとは到底思えない。普段ならば、すごすごと逃げ帰り、後日オズヴァルトとともに改めて面会を求めるところだ。

 しかし、クレマンは引き下がるわけにはいかなかった。自分が抱いた疑惑を、オズヴァルトに聞かせるわけにはいかない。

 屈強な肉体を持つ音を見上げ、クレマンは取次を求める。

「お願いです。イヴォンヌ嬢の事件に関して、重要な事実を確認したいだけなのです」

 頭を下げて頼み込む。長く仕えている、しかも使用人頭という主人一家に最も近しい場所にいる男ならば、大切なお嬢様の事件に関して、平静ではいられないはずだ。しかし、クレマンの予想とは違い、男はイヴォンヌの名前にも、大した感慨を抱いている様子はなかった。

「お願いします。お時間は取らせません。イヴォンヌ嬢を殺した犯人を捕まえるために、必要なことなのです!」

 食い下がる他に手段はない。必死なクレマンに、男は深々と溜息をついて、「少々お待ちください」と、奥に引っ込んだ。それからすぐに戻ってきて、無表情なまま「どうぞ」と、クレマンを中に入れてくれる。

 ひとまずの問題は解消されて、ホッとした。しかし、難関はこの先であった。

 果たして、バロー夫妻は真実を自分に話してくれるだろうか。

30話

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