孤独な竜はとこしえの緑に守られる(57)

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56話

 ベリルは気にしないと言ったが、シルヴェステルはしばらく経っても、遺跡に人間族の調査団を送ることができなかった。ベリルが守ろうとした人たちの先祖が眠る墓所だ。荒らすような真似はしたくない。

 ベリル自身は、本当にどちらでも構わないようだった。

「拾ってもらったのはありがたいけれど、生きたまま改造されたのは、ちょっと。記憶にはあんまり残ってなくても、気持ちのいいものじゃないです」

 と、言いつつも、ベリルは最低でも月に一度、祠に向かった。シルヴェステルは何も言わずに背中に乗せて飛んだ。道中に摘んだ野の花を手向け、手を合わせるベリルをただ眺めることしかできない自分に、歯がゆさを覚えながら。

 日々を過ごすにつれて、大昔の記憶はベリルの脳に、断片的に浮かんでは消えていくらしい。自分以外に知り得ないことであるからと、彼は克明に記録していた。

 その中には、ベリルに力を与えた白い蛇の記憶もあった。ずっと思い出せなかったけれど、王女が彼の者に授けた名は、ナーガであった。偶然か、それとも必然か。ベリルはわからないと首を横に振った。

 騒動を引き起こしたナーガのその後の行方は知れない。おそらく、北の群島国家へと密航したのだと思われる。北と南とは正式な国交を結んでいないが、南の女王とは何度か会ったこともある。お互いに好意は皆無の会談だったが、自国の面倒にもなりそうな案件だ。特徴ある蛇人族の男を見かけたら、すぐに捕らえて竜王国側に送り返すことくらいはするだろう。

 その点、北は暗黒地帯である。王が誰なのか、それどころか支配者が存在しているのかさえわからない。だから犯罪者は皆、北へ逃げる。

 カミーユはずっと追いかけたそうにしているが、彼にいなくなられると困るので、シルヴェステルは気づかないふりをしている。

「ベリル」

 祈りを捧げる愛しい青年に声をかけた。彼は立ち上がり、振り返る。明るい緑色の目を見つめ返しながら、シルヴェステルは懐から、とあるものを取り出して渡した。

「これは?」

 簡素な銀のリングに、緑の石が埋まっている。ベリルの目とよく似ているが、石の方がやや色が濃い。光にかざしても透けない石は、最近この近くの鉱山で発見された石であった。

「お前の弟の代わりに、ここへ」

 竜退治に向かった、攻撃型の兵器である二号のことは、ベリルの口から何度も聞いていた。強気で、生意気で。王子殿下とは意気投合して、悪戯ばかりしていた弟。顔は似ているけれど、全然似ていないと笑った顔は、寂しそうだった。

 二号の死体は、どこで朽ち果てたものかわからない。代わりにここに埋葬するべく、シルヴェステルがわざわざ作らせた指輪であった。

「ジェイド。その鉱石の名だ」

 実の親に名を呼ばれることのないままに孤児となり、兵器として一号、二号と番号で呼ばれることしかなかった可哀想な双子。

 シルヴェステルは、ベリルの手を握りしめた。

「そして、お前の弟の名」

 彼は目を見開き、リングを見つめた。唇は何度も、「ジェイド」と動き、弟のことを思い出している様子である。その目が潤み、はらはらと涙が落ちていく。

「余計なお世話だったか?」

「ううん……弟も、ジェイドも、きっと喜んでいると思います」

 抱きついてくるベリルの身体を、シルヴェステルは優しく抱き返した。

 ジェイド。愛するベリルの弟よ、どうか安らかに。

 お前の兄は、必ず自分が幸せにするから。

 ベリルの強く深い愛情に報いるために、これから生きていく。ずっとずっと、死が二人を分かつまで、どうか。

 指輪に向けて、シルヴェステルは誓った。手で土を掘り、埋められる直前、緑の石は強い光を放ったように感じた。

 【終】

 

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