高嶺のガワオタ(7)

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ライト文芸

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6話

 臨時雇いのピンチヒッターだからか、給料は手渡しだった。汗で蒸れたスーツを脱いで、タンクトップ一枚でいるところに、次郎の上司が現れて、封筒を手渡していった。

「本当に助かりました。これ、そんなに多くはないんだけれど」

 わりと朝早くから拘束されて、どのくらい入っているのか気になったが、さすがにこの場で給料袋を開けるほど、飛天は非常識ではない。

「いえ、ありがとうございます」

 久しぶりに手にした、自分の力で稼いだ金だ。なんだか重く感じるのは、浮き出て見える五百円硬貨のせいだけじゃない。

「また何かあったら、頼みます」

 もう二度とないだろうけれど。

 口には出さず、曖昧に笑っておいた。笑顔は得意だった。今の生活では必要ないから、少し引きつっているかもしれない。

「じゃあ、俺はこれで」

 汗を拭いてから手早く着替え、サングラスとマスクを着用し、飛天はテントから出る。

 生業にするくらいだから、ここにいるのは皆、特撮ファンだ。あまり長い間、一緒にいたいとはどうしても思えない。

 次郎に「またな」とだけ伝え、飛天はクリアな視界で外を見る。何の変哲もない住宅展示場の光景だが、新鮮な気分になった。

 晴れ晴れした気持ちで、休養の使い道を考える。臨時収入だし、パーッと使ってしまおう。

 コンビニとかではなくて、もう少しいい店のテイクアウトで、何かを買おう。家族にはケーキでも買って。手土産を買って帰るなんて初めてのことで、少し照れくさい。でも、いつも迷惑をかけているから、このくらいは。

 そう決めて歩みを進めた飛天の背に、「あのっ」と、声がかけられた。

 振り向いて飛天は、目を見開く。

 小柄な女性は、撮影会のときに男に絡まれていた彼女だった。仮面を取り去った状態でまじまじと見る彼女は、より一層美しく、思わず飛天は見惚れた。

「さっきは、ありがとうございました」

 深々と頭を下げる彼女に、飛天は頭を掻いた。

「いや、大したことじゃ……」

 言いかけて、ふと気づく。

 自分はあのとき、マスクで顔が見えない状態だった。そして一言も喋っていない。

 なのにどうして、彼女はアレが自分だとわかったんだ?

「いいえ。私、あんまり男の人が得意じゃなくて……注意したのはいいけど、怖かったんです。だから、助けていただいて、本当に助かりました」

 清楚な佇まいは儚げだが、アルトボイスはしっかりと芯の強さを感じられる。普段、身内以外と話す機会のない飛天は、ハキハキした口調に圧倒される。

 疑問を投げかける暇もなく、「ぜひともお礼をさせてください!」という勢いに飲まれ流され、飛天はあれよあれよという間に、車に連れ込まれた。

8話

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