クレイジー・マッドは転生しない(33)

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クレイジー・マッドは転生しない

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32話

 期末テストまであと二週間となったが、クラスの雰囲気は、まだのんびりしている。ピリピリしているのは、一部のガリ勉組のみで、教室の隅で朝から参考書をにらめっこをしている。時折、「うるさいなあ」とゴミを見るような目で騒いでいる連中を見下しているのは、山本だ。

 頬杖をついて、俺は何とはなしに彼の方を眺めていた。視線が合うと、怯えたようにぱっと目を逸らす。

 結局、遠足の日からこっち、山本からの謝罪はなかった。一言謝ってくれればなぁ、とは思うが、俺も呉井さんも、告げ口をする気は毛頭ない。けれど、山本はいつ担任に呼び出され、事の次第を問い質されるのか、不安で不安で仕方がないのだろう。俺たちを今まで以上に敬遠し、自分の殻に閉じこもっている。

 打倒・呉井さんを掲げてテスト勉強に励んでいるのだろうが、問題を解くのに集中できるんだろうか。心を病まれても困るから、そのうちきちんと話をしないとなあ。そう思いつつも、シャープペンをさらさらと走らせ続ける山本は、聞く耳を持たないだろう。

 まぁいい。山本と話をつけるのは、テストが終わってからでもできる。何なら、夏休みに入って長いこと会わなければ、彼も俺たちとの間にあったわだかまりを忘れてくれるかもしれない。

 目下気になることといえば、山本なんかのことではなく。

 俺は左隣にそっと目をやった。先日の席替えの結果、何の因果か、呉井さんと隣同士になってしまったのだ。

 誰かの陰謀かとも一瞬考えたが、席替えは純然たるくじ引きである。極端に目が悪い生徒は、抽選後に前方席の人間と交代するのだが、中央付近に陣取った俺には、関係のない話だった。

 呉井さんはいつも、朗らかに俺に話しかけてくる。なのに、六月に入ってしばらくして、彼女はどこかおかしい。

「おはようございます」

 挨拶は欠かさない。

「おはよう、呉井さん」

 けれど、その後が続かない。呉井さんは自分の席に着き、教科書類が入ったままの鞄を、机の横のフックにかけた。彼女は俺の方を見ることなく、窓をぼんやりと眺めている。

 つられて俺も、窓の外の光景に目をやる。つい先日、テレビでは梅雨入りのニュースが流れていた。なるほど、梅雨空というにふさわしい曇天である。今にも雨粒がぽつぽつと落ちてきそうだが、そういえば今日は、傘を忘れたな、と思い出す。

 呉井さんは傘持ってきた? なんていう、他愛もない雑談のきっかけすら、俺は口にすることができない。呉井さんの雰囲気が、そうさせる。誰かに話しかけられるのを拒絶している。見えないバリアが張られているような気がする。

 仕方なく、俺は視線を逆サイドに振った。そこには運命の悪戯としか思えない相手がいる。

「おはよう、柏木」

「……おはよう」

 逆隣はなんと、柏木である。「異世界」というワードで緩く繋がっている三人が、並んでしまった。

 柏木は柏木で、教室では俺たちと話さないのが当たり前だ。すぐに席を立って、いつものグループの女子の元へと移動して、談笑している。

 教室の真ん中で、なんとなく俺は、孤独を感じていた。

34話

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