平行線上のアルファ~迷子のオメガは運命を掴む~(52)

スポンサーリンク
BL

<<はじめから読む!

51話

 日高の呼吸の乱れを敏感に察し、早見が背を撫でてくれる。

「どうした?」

「こんなに幸せでいいのかな、って」

 たったそれだけの言葉で、早見は日高の内心を理解してくれる。真剣なまなざしで、「お前の罪は、お前だけの罪じゃない」と言う。

 あちらに日高が逃げてきたからこそ、早見の孤独は埋められたのだから、自分も共犯である、と。

「それに」

「それに?」

「お前が消してしまったのは一人だが、俺は二人、あの世界から消したぞ」

 黒崎家の長男として生を受けたはずの、実の名も知らない赤ん坊。

 それから、ベストセラー作家の早見岳を。

 あちらの世界の住人は、二度と早見岳の新作を読むことはない。それは、業界やファンにとっては大きな損失に違いない。

「お前の罪は、俺が半分背負う」

「早見さん……」

「だから、ともに幸せになることを、怖がらないでほしい」

 これから家族になるのだから。

 抱き締めてくれた早見に、日高は背伸びをして口づけた。

 二人しかいない冬の湖は、どこまでも透明である。そんな静謐な空間で、少しばかり盛り上がり、何度もキスを繰り返していた日高たちだったが、聞こえてきた声に、ハッとした。

 ――キューン、ワンッ。

「今のって……」

 力が抜けた早見の腕を振りほどき、日高は声のする方へと走る。慌てて早見も追ってくる。声の主もまた、足音を聞きつけて、こちらに向かってくる。

「ワオーン!」

 一際大きな声を上げ、大きな毛玉は日高の足元にタックルした。尻尾がぐるぐると大きく回り、喜びを全身で表している。

「まさか……メレンゲ?」

「ワンッ!」

 そうだ、と頷くように首を動かしたメレンゲと、早見の顔を交互に見つめる。彼もまた、驚いていた。

「信頼できる飼い主を見つけて、預けてきたんだが……」

 作家業のあれこれの手続き以上に、メレンゲの新しい飼い主探しに時間がかかり、こちらの世界に来るのが遅れたと話していたくらいである。

 預けてからも、何度か顔を出し、可愛がられているのを確認していた早見は、「お前も日高を追いかけてきたのか?」と、話しかけながら頭を撫でる。

 当然だろ、と得意げな様子で鼻を鳴らしたメレンゲを抱き締めると、日高の目からは涙が落ちた。

「そうだ……そうだよな。メレンゲも、家族だもんな……」

 湖の神様の加護は、自分たちに惜しみなく注がれている。

 日高が涙目で早見を見上げると、彼は困った顔を装って言った。

「マンションじゃなくて、戸建てを買わないとな」

 メレンゲのためだけじゃない。これから生まれてくるだろう、新たな命のためにも、大きな家を買おう。子どもと犬が思う存分走り回れるような、広い庭つきの。

 嬉しそうな早見の言葉に、日高も大きく頷いた。腕の中のメレンゲは、よくわからない顔をしているが、主人たちの喜びは伝わっているらしい。

 彼の尻尾は、日高の腕に叩きつけるように、忙しなく揺れていた。

ランキング参加中!
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村 小説ブログ 小説家志望へ
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説家志望へ



コメント

タイトルとURLをコピーしました