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<95話
被服室は呉井さんが来るかもしれないから、と、俺たちは学校最寄りのファストフード店に飛び込んだ。特に腹が減っているわけではないが、ハンバーガー屋に来たら、ハンバーガーを注文してしまう。
「ポテトLにして! あたしも摘むから!」
「はいはい」
自分はドリンクだけさっさと購入した柏木の要請で、セットポテトのサイズアップを頼む。差額は誰が払うんだよ、と一瞬思ったけれど、彼女が払ってくれるわけもない。今まで隠してきた慰謝料にしては安すぎる気もするが、せっかくだからそうさせてもらう。
ちょうど四人席が空いていたので、俺は山本と隣り合って座り、向かい側に柏木の布陣で着席する。
「で、さっきのどういうこと?」
ストローの封すら切らずに、柏木がいきなり本題に入る。
「あー……」
唸り声を上げて、ちらりと山本の顔を見るが、彼は首を横に振った。
「明日川がきちんと、自分の言葉で説明するべきだ。僕だって全部、ちゃんと聞かされているわけじゃないし」
淡々と説得されると、確かにその通りだった。人任せにしないで、全部自分で考えて話をしないと、柏木は俺が隠していた理由を納得することはできないだろう。理路整然という風にはいかないけれど、と前置きをしたうえで、俺は声を潜めた。
「呉井さんは、誕生日に自殺しょうとしている」
「ぶふっ」
山本が飲んでいたドリンクを噴き出してむせる。ゴホゴホ苦しそうな彼の背を摩りながら、いきなり結論から言うのは衝撃がでかすぎた、と反省した。柏木は、言われたことを理解できずに、ぽかんとしている。
「じさ……え? 死?」
かしわぎ は こんらん している !
なんていうポップアップウィンドウを錯覚するほど、見事な困惑ぶりだった。
俺は咳払いして柏木の正気を取り戻させ、もう一度最初から、話を始める。
「呉井さんは、異世界転生を夢見ている。いや、本気でできると思っている。その手段が、トラックに突っ込んで死ぬことなんだ」
「や、確かに転生モノだとトラック事故はテンプレだけど……」
瑞樹先輩の姉・瑠奈の話もして、最初は半信半疑だった柏木も、俺の話が終わる頃には、涙目になっていた。
>97話
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