クレイジー・マッドは転生しない(2)

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クレイジー・マッドは転生しない

1話

「だって校則には何も書いてないじゃないですかぁ!」

 転校三日前に、俺は初めての美容院で髪を染めた。茶髪? いやいや、そんなんじゃない。その程度じゃ、俺のオタク感は薄まらない。まったく。気合いを入れるためにも、もっと個性的で明るい色を目指した。

「っていうか、地毛! 地毛ですぅ」

「ピンクの髪した日本人がいるかっ!」

 そりゃそうだ。アニメや漫画じゃあるまいし。しかも、美容院に行く前に挨拶に訪れているので、担任は黒髪の俺をばっちり目撃している。

「突然変異っす! 三日前の朝、起きたらこうなってたんです!」

 それでも俺は、地毛だと主張する。

 前の学校は校則が厳しかった。教室の隅にいた俺は違反したことはない。ただ、恐ろしい光景は見ていた。連れていかれた女子が、朝とはまるで違う顔になって戻ってきたのだ。室内でいったい何が行われたのかを考えると、恐ろしい。

 生徒手帳の校則が書かれたページを熟読したが、「髪をピンクに染めるべからず」という項目はなかった。クラスメイトだって、明るい茶髪の人間もいる。隣に座っている女子とか、外側は栗色だけど、内側の毛はほとんど金髪じゃないか。表に見える部分がそんなに派手じゃないから、何も言われないのか? せこい。

「ともかく! お前は放課後、生活指導室だ!」

「え~……」

 転校初日で生活指導室送りとか、まともな友達できそうにない。敬遠されるの間違いなし。ピンクの髪じゃオタク受けも悪そうだし、俺、もしかしてぼっち確定か? 

 助けてくれよ。派手頭仲間だろ。

 隣の女子に情けない視線を送ってみるが、彼女は俺の頭を凝視するばかり。はっはっは。そんなにピンク頭が珍しいか? ……珍しいか。

 今日は始業式だけで、午前中で帰れるのに。生活指導室に連れていかれたら、腹が減るじゃないかぁ……ぐうう。

 誰も助けてくれないので、うなだれて着席した。ここは一度、受け入れて、放課後ダッシュで逃げることにしよう。そうしよう。

 ……なんて、俺の計画は担任に見透かされていた。つか、そもそも座席の位置が最悪だった。通路側なのはいいけど、一番前って。スポーツとは縁遠いオタクが、どう見てもスポーツマンのマッチョ中年(担当教科は体育じゃなくて、英語だ)の瞬発力から、逃げ切れるわけがなかった。

 二秒で捕まって、抵抗むなしく廊下を引きずられる。

「痛い! 痛い痛い痛い! 離して!」

「離したら逃げるだろうが」

 せめて耳じゃなくて、腕とかにしてほしい。馬鹿力で引っ張られたら、耳がもげちゃう。

「逃げないから~……!」

 情けない俺の悲鳴が、廊下に響き渡った。始業式後のホームルームが終わるのは、どこのクラスも似たり寄ったりの時間で、喚き声に「なんだなんだ」と教室の内外からぶしつけな視線を向けられる。そして俺のピンク頭を見て、どこに連れていかれるのかすぐに理解し、道を開けるのだった。

 抵抗すればするほど、被害を受けるのは俺なので、黙って付き従うつもりなのに、担任が離してくれない。どうしてこんなに信用がないんだ。髪の色のせいなのか。

 耳の痛みがいよいよヤバイ。そのとき、初めて俺の姿を見咎めた人物が現れた。

3話

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