高嶺のガワオタ(14)

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ライト文芸

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13話

 結局飛天は、その日のうちに連絡ができず、週末の予定はなしになった。映理の方から誘ってきてくれても……と思わなくもないが、「あそこに行きたい」と言われても、叶えられない自分に、とことん嫌気がさす。

 朝食後も、ぼんやりとソファの上で過ごしている飛天とは対照的に、水魚は朝からドタバタしている。

 土曜日は大学も、休みではなかったか。

 はて、と何とはなしに動向を見守っていると、飛天は己の勘違いに気がついた。

「デート?」

 大学に行くときは、制服かと思うほど、定番のカットソーとスカートを着用している。女子向けの好感度が高そうな服だ。

 今日の格好は違う。膝丈のズボンは動きやすさ重視で、上半身もボーダーのTシャツにパーカーと、シンプルかつボーイッシュだ。おまけにキャップも準備されている。

 服装がスポーティーな割に、メイクはいつも以上に念入りに行っていた。キラキラとしたラメを目元に飛ばしている。

「そ」

 デートといえば、先日電話で大喧嘩していた。野球に行く行かないという、飛天からすればどうでもいい、でもなんだかうらやましい理由で。

 水魚の格好からすると、彼氏の意見が採用されたようである。ところで野球に行くというのは、見に行くのか。それともプレイするのか。

 どちらなのか聞く前に、妹から「お兄ちゃんと違って、今日もデートですよ」と辛らつな嫌味を食らう。

 飛天は唇を尖らせる。どうせ兄は、今日も暇なニート野郎ですよ。

「あんだけ喧嘩してたのに……」

「喧嘩じゃないよ。意見の擦り合わせ」

 その割に喚いていたような記憶があるのだが。

「野球見た後は、ずっと行きたかったカフェに行くことにしたの」

 お互いやりたいことが違うなら、両方すればいい。

 水魚はそう言って、時計を確認して焦りだす。

「やっば、時間だ! いってきまーす!」

 慌ただしく出ていった妹に、「いってらっしゃい」の言葉をかける余裕はなかった。

 一人で残された飛天は、ソファに深く身体を沈み込ませて考える。

 お互いにやりたいこと。

 今までのデートを振り返って、飛天はそこに「やりたいこと」などなかったということに気がついた。人混みをさけるための消去法でしかない。

 映理はどう思っているのだろう。飛天は今までの彼女とのやり取りを見返すべく、スマホのアプリを起動させた。

『いいですね!』『美味しそうですね』『楽しかったです』……デートの打ち合わせと感想は、ポジティブな言葉に彩られている。でもやはり、すべて飛天の提案から始まっていて、映理は賛同しているだけ。

 自分の送ったメッセージには、「どこに行きたい?」「何がしたい?」という文面が、一切なかった。

 映理に対する思いやりはなく、ただ自分の欲求を押し通そうとしている浅ましさが透けて見え、飛天はすべてを消し去りたくなる。

 メッセージを消しても、映理の記憶からは消えない。これからの行動で、取り返していかなければ。

 高校時代に、ちゃんと恋をしていればよかった。禁止されているからって、女の子からの告白を断らずに、付き合ってみればよかった。仲間たちはみんな、こっそりと恋愛を楽しんでいたのに。

 実際の経験があれば、こんなどうしようもない失敗はしなかった。

 思えば、美術館の感想を語っているときの彼女は、本心から笑っていなかった。初対面のときの、特撮が好きでたまらないという笑顔とは違う。静かな微笑を唇に浮かべているだけだった。

 せっかく二人で会うのだから、自分と過ごして楽しいと思ってもらいたい。映理が心から笑顔になる瞬間を、ひとつでも多く目に焼きつけたい。

 恋をすれば当然のように湧き上がる欲求に、飛天は今、初めて気がついた。

 そうだ。これが恋をしているということなのだ。

「よし」

 飛天は一度大きく深呼吸をすると、電話をかけ始めた。

15話

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