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<12話
ピンク色の毛玉は、薫の部屋の一部になっている。その後のデートで手に入れた、ささやかな土産物も、きちんと棚に飾ってある。そのひとつひとつに思い出が詰まっている。
きっかけはぬいぐるみという、些細な物だったけれど、あの日からデートは、姉の命令だから、という義務ではなくなったのだ。一緒にいると楽しいから、自ら遼佑をデートに誘うことだってあった。
遼佑のことをもっと知りたいと思った。好みの男とできて役得、と思っていたキスが、もっと胸をときめかせるものになった。
騙し騙されの関係だけでなくなったのは、いつからなのかもう、薫には思い出せない。明確な境目があったわけではなくて、グラデーションのように、空気は変化していった。
そう考えて、薫の中に初めて、本当の意味での罪悪感が生まれた。楽しい、嬉しいと思っていたのに、それを直接遼佑に伝えることはなかった。それだけじゃなく、姉に言われるがままに、弄んだ。
本当はもっと早くに、気づいているべきだったのだ。遼佑に好意を抱いているのだ、と。そして真実を語るべきだったのだ。説得する言葉を持たない、子供ではないのだから。
遼佑と話がしたい。強烈にそう思った。心から謝りたいし、遼佑に恋をしているのだと、伝えたかった。
しかし電話をかけても、彼は出てくれないだろう。だったら別の手段を行使するまでだ。
薫はベッドから起き上がった。なんとなく、身体が軽くなった気がする。すぐに姉の部屋へ行き、ドアをノックする。
「なに、どうしたの?」
扉を開けたら、真剣な表情をした弟がいたからだろう。静は戸惑いの表情を浮かべた。
>14話
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