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<29話
たまたま映し出されたのは、夏らしく、心霊特番であった。あまり見たことがなかったので、不満も忘れ、日高はじっと画面を見つめてしまう。
『いやあ、これは加工でしょ。いくらでも画像ソフトで作れますよ、こんなの』
中年の男が、専門家ぶって腕を組み、鼻で笑った。パネリストたちは、投稿された心霊写真が本物か偽物か、議論している。
アップで映し出された写真は、男女のツーショットだった。二人は手でハートを作っている。背景は白いパーテーションか何かで、単純なデート写真ではない。距離感も、恋人同士のものではない。
おかしな部分は、男性の首から上であった。プライバシー保護のため、女性の目は黒いラインで隠されているが、男性は違う。モザイクとも異なる、黒い靄で覆われているのだ。
なるほど確かに、簡単に作れそうではある。日高も偽物だろうと思った。MCも一度頷き肯定を示したが、「しかし」と、この写真についての補足情報をあげた。
『この一枚だけであれば、確かに加工でしょう。実際、選出に関わったスタッフも最初はボツにしようとしたそうです。しかし、この男が映っている同じような写真が、他にも複数投稿されておりまして……』
映し出された何枚もの心霊写真。映っている女性はすべて別人だ。だが、隣にいる黒い靄の男はすべて同一人物だった。体格だけじゃなく、服装までまるきり同じなため、同日に撮られた写真だと推測される。
『しかもこれ、全部インスタントカメラの写真なんですよね』
その場で出てきた写真を、わざわざパソコンに取り込んでまで、心霊写真に見せかけるだろうか。しかも、加工方法まで全部同じ。もちろん、投稿者の女性たちは知り合いでもなんでもない。
『投稿してくださった方は、皆さん、この写真をいつ撮ったのか、誰と撮ったのかも覚えていないそうです……』
いつの間にか、フォトアルバムに大切そうに保存されていたとのこと。
映画のことも忘れ、食い入るように見つめていた日高は、「不思議なこともあるもんですね」と、早見に視線を向けた。
ホラー小説のいいネタになるだろう。早見岳の作品は、恋愛小説からミステリまで、多岐に渡る。
てっきりペンを走らせているからこその沈黙だと思っていたのだが、日高の想像とは異なっていた。
「早見さん……?」
なんだかとても怖い顔をしていた。話しかけた日高に、早見はハッとした表情になると、すぐにテレビを消した。
「……少し、用事を思い出した」
彼はそれだけ言うと、日高に何も言わず、自分の部屋へと籠もってしまった。
「そんなに心霊番組、怖かったのかな」
でも、早見の著作の中には、本能に訴えかけるようなおぞましい表紙のものもある。中身は読まずとも、わかる。えげつないホラーに違いない。あんな本を出版するのだ。心霊写真など、恐れるに足りない。
何か、彼の機嫌を損ねるようなことをしてしまったのだろうか。
まったく身に覚えがない。
日高はメレンゲを、ぎゅっと抱き締めた。彼は日高の不安に寄り添うように、「きゅーん」と、小さく鳴いた。
>31話
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