クレイジー・マッドは転生しない(9)

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クレイジー・マッドは転生しない

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8話

 転校してから一か月が経とうとしている。

 その間に俺が得意になったのは、校門前で風紀チェックをしている天敵たち――言わずもがな、生活指導担当教員及び風紀委員たちである――から逃げることと、呉井さんの話に適当な相槌を打つこと、それから教室中の好奇の視線を受け流すことだった。

 転校先で心機一転、オタクから気安く話せるややパリピ(前の学校で一番人気があった奴を参考にする。あいつはオタクの俺にも話しかけてくれる、いい奴だった……)を目指そうと、髪をピンクにしたのが運の尽き、変なのに絡まれることになった。

 今日も今日とて、金髪を咎められている女子生徒を一方的に生贄に捧げ、その横を駆け抜けて風紀検査を免れた俺は、教室にたどり着き、ほっと一息ついた。後方の席をちらと確認する。彼女はまだ来ていない。

「明日川、はよ」

 声をかけられて、「おはよう」と返す。挨拶は人間関係の基本だからな。なるべく感じのいい笑顔を浮かべた。たとえそれが、あんまり好ましい相手ではなかったとしても、それをおくびにも出さずに対応する。処世術ってのはそんなもんだ。

 何せクラスの連中が話しかけてくる話題なんて、ひとつしかないんだからな。

「なあ。お前、クレイジー・マッドと一緒にいて、頭おかしくなんない?」

 当の本人は登校していないにも関わらず、彼は声を潜めた。クレイジー・マッドだ。何ができてもおかしくない。居合わせていない場所での陰口も察知されているかもしれない……そんな不安から、自然と小声になるのだろうけれど、呉井さんにはそんな特殊能力はない。

 ただ、ちょっと……いや、大いに変わっているだけだ。

 さて、なんて答えたもんだろうか。ちょっと迷う。約三週間、俺は彼女と彼女を守ろうとする男たちに振り回されて、愚痴を言いたい気持ちにもなる。が、陰でこそこそ言うのは好きではないし、それこそ瑞樹先輩たちは……俺の陰口を察知しそうで怖い。ぶるりと瞬間、震えあがる。

 ここは当たり障りのない話で終わらせるべきだと判断して、俺は「別にそんなことないけど」と言った。クラスメイトは納得していない様子で、鼻を鳴らす。

「でも、お前とクレイジー・マッド、付き合ってるんだろ?」

「は?」

 え、ええー? なんだそのデマ。「みんなそう思ってるぞ」と付け足されて、俺は顔面蒼白だ。

 その噂、どこまで広がっているんだろう。

 生徒の間だけなら、大丈夫。瑞樹先輩はいとこの呉井さんを大切に思っているけれど、近づく男を容赦なく斬って捨てる男ではない。むしろ呉井さんの事情を理解して尊重したうえで恋人になってくれる男ならば、喜んで受け入れてくれる気すらする。

10話

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