星読人とあらがう姫君(15)

スポンサーリンク
ライト文芸

<<はじめから読む!

14話

 もしも母に水を飲ませることができていたのなら、母の命の火は、再び燃えることがあったのだろうか。

 成長し、大人になった露子はその問いに、否と答えることができる。

 薬草も何も入っていないただの水に、そんな力はない。ただ、父も僧侶たちも、母が水を求めていたことを知らない。母が渇いたままで死んだのが悔しかった。

「いまだに、私は……」

 あのとき転んで、水を零してしまったことを後悔している。慈しみ深き母の願いを叶えられなかったことを、罪だと思っている。

「夏は、嫌い」

 母の命を奪い、自分を無力なものに貶めた夏など、好きになれるはずもない。露子は拳を握りしめた

 母の病を治すための加持祈祷は、三日三晩続けられた。僧侶たちの体力にも限界があり、何度か人員が交代していた。彼らは部屋から出ると、蹲っている露子には気がつかずに、こう陰口を叩いたのだ。

 ――謝礼もほとんど出ない祈祷を、よくもまぁ阿闍梨あじゃり様は熱心に行われるものだ。

 ――すぐに我らを呼ばなかった時点で助かる見込みはないというのに。この家の主人は、夫人を見捨てたのだな。

 当時、意味はわからなかった。けれど露子は、一言一句間違いなく記憶した。覚えていようと思ったわけではない。脳裏に刻み込まれた。

 お母様は助からない。それはお父様のせいでもある。けれど一番許せないのは、何もできない、私。

 拾った毬をつき、声を潜めて泣いている露子の頭上を、甲高い経を読む声が通過していく。声は徐々に小さくなっていく。でもそれは最初に期待していたように、母が治癒したことを示すものではない。

 もうこれ以上仏に祈りを捧げても、無駄だと判断されたのだ。

 ひっく、と喉が震えた。毬はころころと転がっていく。けれど大声を上げるには遅すぎた。我慢し続けていると、不意に誰かの手が、髪の毛をくすぐった。

 誰だろう、とおずおずと顔を上げた露子の前には、怪訝そうな顔をした少年がいた。

16話

ランキング参加中!
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村 小説ブログ 小説家志望へ
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説家志望へ



コメント

タイトルとURLをコピーしました