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<15話
あの少年だ。露子ははっとする。うすぼんやりと彼の顔を思い浮かべる。不思議な色の、目をしていた。母の持っていた宝玉によく似た色の。
少年は、年の頃は十歳前後。まだ元服もしていなかった。見つけた、と夢の中の声が蘇る。彼が夢の中の少年であることは間違いないのだが、顔ははっきりとは思い出せない。
こめかみのあたりに手をやって目を閉じた露子を不審に思って、「奥方様? 姫様?」と雨子が声をかけてくるが、しっ、と鋭く一言で黙らせた。
彼の言っていることは、わずか三つの露子には難しすぎた。母の死について何かを言われ、おそらく自分は泣き叫んだはずだ。信じない、絶対に、信じない、と。
そんな露子に対して彼は、何かを言った。露子のその後の生き方に大きく関わる、大切な言葉を。
「そう、だ……」
目を開き、露子は茫然とした口調で独り言を言った。
――お前が母のことを想う気持ちだけは本物だ。
――お前のその想いを、祈りに込めればいい。
――自分の心を、信じろ。
――俺の言葉を、信じろ。
確かに彼は、そう言った。自分の心、自分の信念に従って生きること。自分が納得できなかったことには頑として首を縦に振らない露子を形成しているのは、彼の言葉だった。
顔も思い出せない。けれど、彼の言葉は自分の心の中に根を下ろし、支えてくれていた。
「自分の心を信じろ、か……」
よし、と露子は両手で自分の頬をぱん、と叩いて気合いを入れた。力も何も持っていない自分、そしてその力の存在も信じ切れていない自分。
それでも露子は、義弟にあたる帝に、できる限りのことをしたいと思った。
>17話
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