平行線上のアルファ~迷子のオメガは運命を掴む~(25)

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24話

「昔々、翡翠姫っていう、お姫様がいたそうです」

 姫は、オメガだった。当時はもっと別の言葉で呼ばれていたらしいけれど、興味のない日高は、忘れてしまった。

 権力者の家に生まれたオメガの行き着く先は、政略結婚の駒だ。日高もある意味、父に利用されたわけである。

発情期に性交をすれば、オメガはまず間違いなく受精する。子どもが生まれにくかったり、生まれても育たなかったりして、お家断絶の危機にある家にとっては、側室として迎えるに値する。

 翡翠姫は、遠く離れた領主の家の妾になるべく、幼い頃から育てられていた。父どころか、祖父ほど年の離れた領主に嫁ぐ彼女は、せめてもの情けか、若い男の姿を見ないように、屋敷の一室に監禁された状態で過ごしていた。

「でも、そんなのやっぱり無理だった。花が好きだった翡翠姫は、庭師の青年と知り合ってしまうんです」

 初めて見た若い男に、姫は想いを募らせていく。男の方も、美しい姫君に心奪われた。

二人は逢瀬を重ね、恋人関係になるが、姫に初めての発情期が訪れる。そう、子作りが可能になったのだ。

「駆け落ち、か」

 伝説や神話というのは、だいたい似たり寄ったりだ。素人の日高ですら読めてしまう話のオチを、早見は見破っていた。

「もちろん駆け落ちは失敗します。そうして離ればなれにされてしまった姫は、きれいなカゴに担がれて、領主の元へ送られる。その途中で」

 日高は目の前の湖を指した。

「爺さんの妾になるのを嫌がった彼女は、見張りの隙をついて、湖に身を投げたそうです。恋人と引き離されたこと、彼をひどく罰したであろう家族、まだ見ぬ好色な領主、それから」

 オメガに生まれついてしまった自身の性を呪い、死んでいったのだ。

「姫の呪いは、彼女の家や湖周辺だけではなく、離れた場所にある嫁ぎ先にも及びました。湖は彼女の恨みに反応して真っ赤に染まり、作物はまったく育たなくなってしまったそうです」

 彼女を神と祀ることで、ようやく呪いは治まった。ご神体は、この湖そのものだ。悲劇の姫の血や肉、骨が溶け込んだ湖を、神としている。

「だから、この翡翠湖神社は、向こうの世界ではオメガの駆け込み寺になっているんですって」

 この話を教えてくれたのは、ベータである友威だが、彼もまた、この神社には深い関わりを持っている。たまたま家族の話になったときに、彼の母が後妻であることを知った。

 彼の家族もまた、第二性に振り回されていた。

 元々黒崎家に嫁いできたのはオメガの女性で、彼女は姑から、オメガであることを理由に、ひどい嫁いびりをされていた。

古い世代の人々の中には、いまだに公然と、オメガを淫乱だと糾弾する、差別意識の強い人がいる。それでいて、繁殖能力は利用しようというのだから、性質が悪い。

 前妻は生まれたばかりの長男を抱えて病院から抜け出し、翡翠湖へ逃げた。産後の肥立ちが悪い状態だったため、彼女はそのまま亡くなってしまったが、消息不明のままだ。死体すら、上がっていない。

『その腹違いの兄がいてくれたらなあって、子どもの頃は、よく思った』

 苦笑いをしていた友威のことを思い出す。アルファ同士の夫婦から生まれたベータの彼もまた、差別に苦しめられていた。

今ごろ、どうしているんだろう。探してくれているのか、それとも諦めてしまったのか。

 諦めてくれていればいい。そうすれば、日高の方も覚悟ができる。こちらの世界で、無理矢理にでも生きていく覚悟が。

26話

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