夏織(14)

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13話

 二人暮らしはとても快適だった。夏織の体調が優れないときには、文也が家事を担ってくれる。

 ただ、眠る前に文也が、夏織の腹をいとおしそうに撫でるのだけが、苦痛だった。腹はだいぶ大きくはなってきた気がするが、臨月まではほど遠い。悪阻で吐き気はあるが、そこに子がいることを、普段は意識していない。

 だが、文也のその行動によって、自分は妊娠しているのだと思い知らされるのだ。この腹の中には、子供がいる。もう、産み落とすしかない子供だ。

 夏織には、祈るほかないのだ。この子が、文也に似た子であることを。

 毎朝、出勤する文也をわざわざ階下まで見送りに行く。マンションの部屋の中でいいのに、と彼は言うが、夏織は笑って一緒にエレベーターに乗り込む。

 傍から見れば、カップルが朝からいちゃいちゃしているだけの、微笑ましくも暑苦しい光景だろう。

「いってらっしゃい」

「いってきます」

 だが、夏織の目的は、別のところにある。

 文也が忘れ物などで戻ってこないことと、周りに人がいないことを確認してから、夏織は郵便受けを開ける。

 何の変哲もない白い封筒に、夏織は一瞬息を詰めて、それから何事もなかったかのように、長く吐き出した。震える指で取り出すと、案の定、宛名も送り主の名前もない。

 引っ越し前のアパートだけではなく、文也が元々住んでいたマンションにまで、三日に一度は怪文書が投げ込まれていた。

 誰も見ていないのに、夏織はその封筒を、エプロンのポケットの中にこっそり閉まった。エレベーターを待っている間にすれ違った住民に、怪しまれないように笑顔で会釈する。

 一人になった部屋の中で、夏織はようやく手紙を開封して、中身を確認する。

 文面は、最初のときのように「すべて知っている」とだけ書かれたものも多かったが、もっと踏み込んだ内容のものもあった。

 几帳面に折られた紙を開くと、パソコンで打ち込まれた文字が印刷されている。

 今日の手紙は、決定的だった。

『古河夏織。お前の腹にいるのは、浅倉文也の子ではない』

15話

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