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<50話
『ふふん』
得意げなドヤ顔の柏木から、結果は一目瞭然だろう。
幼なじみの子は、確かに森河のことを想っていたことが判明した。教えてくれた一年の女子は、噂話を広めるのに気が咎めるという顔をしつつ、躊躇は一切なかった。
『なんか、森河くんに近づく女子に嫌がらせしてるって噂もあって……』
どんな嫌がらせなのかも言っていたが、その辺はどうでもいいのでスルーだ。
大事なのは、犯人になりうる動機があるかどうか。この分ならば……。
俺たちは顔を見合わせ、頷いた。十中八九、犯人で間違いない。
罠を張るべく、呉井さんは森河と接触した。付き合うつもりは一切ないが、そんなことはおくびにも出さずに森河をたぶらかす呉井さんは、やろうと思えば悪女にもなれるだろう。
さりげなく俺たちは二人の周辺を窺うと、いたいた……ものすごい顔で、二人を睨みつけている女の子。
布石を打ち、わざと呉井さんは財布を置いていった。狙い通り、少女は動いた。仲睦まじくしているのを見たその日に実行するって、行動力半端ないな。
「さ、財布が落ちていたから拾っただけです!」
「言い逃れはできませんの。あなたがわたくしの財布に手をかけたという証拠は、すでに押さえさせていただきましたので」
恵美、と合図すると、仙川がタブレットを向ける。リアルタイムで映し出されている教室の映像は、呉井さんが仕掛けたカメラの物である。
「あなたがわたくしの机から、財布を取り出したのも、ばっちり映っています」
ガクガク震えている少女は、呉井さんに土下座をする。
「ご、ごめんなさい……先輩に、たっくんを取られると思って……ゆ、許して……!」
呉井さんがどう裁くのか。
もともと俺にどうこうする権利はない。少女を罰する権利があるのは呉井さんだけだ。罠にかけてまで犯人捜しをした。相当怒っているには違いないが、基本的には呉井さんは、慈悲深く、性善説の立場を取る人だと思う。
怒りをどのようにして治め、彼女を裁くのか、興味深かった。
「ごめんなさい!」
呉井さんは謝罪を聞き流して、ふわりと微笑んだ。
「絶対に、許しません」
泣き声をBGMに、呉井さんは粛々と断罪を済ませる。仙川に命令して、職員室に人をやり、担任を呼んでこさせた。先日の手帳も写真に撮っていたので画像を見せ、改めて被害状況を伝えた。
「器物損壊に加えて、窃盗未遂です。わたくしは、このまま警察に訴え出るつもりでおります」
無表情な人形のような呉井さんからは、真意が読み取れない。担任も困惑している。
真っ青な少女を横目に、呉井さんはさらに追い打ちをかけるべく、電話をする。本当に警察に電話をするのかと思ったが、相手は違った。
「もしもし、森河くん?」
「や、やめてえええええええぇ!」
一番知られたくなかった相手に、自らの悪行を暴露された少女は、錯乱状態になった。
呉井さんはその姿を見ているだけだった。
笑顔を浮かべていても怖いが、何の感情もなくただ見下ろしている。その姿が、空恐ろしかった。
>52話
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