成長期ヒーロー(3)

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2話

 結局譲はアルバイトをさぼった。咎めると「平気平気。俺、オーナーの奥さんのお気にだもん」とへらへら笑った。

 立ち話もなんだし、とひとまず大学近くのファストフード店へ入った。たくさんの若者たちがいて、学ラン姿の少年も目立たない。

 少年は、小澤(おざわ)(みつ)()と名乗った。近くの公立中学校に通う三年生で、兄が和桜の学生だという。彼のプロフィールを聞きだしたのは譲で、恭弥は黙っていた。

「で、御幸に一目惚れとは?」

 光希はきらきらとした目で恭弥のことを見つめた。好きだ、と言ったのは冗談でも勘違いでもないのだと、そこでようやく恭弥は思い至ることになる。恋する少年の目なんて、自分がよくわかっているじゃないか。

「御幸さんものすごく可愛くて、でも可愛いだけじゃなくて、なんだろう。こう、うーん……気が強い? 違うなあ」

「気高いとかそういう感じ?」

 譲の助け船に「ああ、そうですそんな感じ!」と光希は顔を輝かせて一人で納得したようにうんうん頷いている。

 どうする? と、譲の視線が問う。恭弥はじっと目の前の少年を見た。確かに害はなさそうだった。見るからに純朴そうで、ただ「好きです」と伝えに来ただけのように見える。

 幼い頃から愛くるしい子供だった恭弥は、変質者に付きまとわれた経験も一度や二度ではない。警戒心だけがすくすくと育って、譲に助けてもらったことは数限りなかった。

「……僕は男だけど、それでも好きだって言うの?」

 恭弥が光希に直接口を開いたのは、これが初めてだった。譲の口を介してではない、恭弥の生の声に光希は微笑んだ。

「本当は、わからなかったんです。女装してたあなたに、理想の女の子を重ねてただけかもしれないって」

 だから、確かめたかった。

「直接会って、この気持ちが本当に恋なのかどうか、確かめたかっただけなんです。告白するつもりじゃあなかったんです。ただ、会った瞬間にやっぱりこの人だ、と思って、つい」

「つい、で告白するのか。最近のお子様はやるねえ」

 譲は茶化したが、光希は真剣だ。じっと恭弥が見つめ返していると、不意に彼は視線を下に向けた。

「でも、迷惑ですよね。いきなり、よく知らないガキに好きって言われても」

 その角度の光希を見たとき、少しだけあの頃の千尋を思い出した。美しく優しい貴公子だと信じていた頃の千尋だ。細いのではなく切れ長だと思えば、光希の目は少しだけ、千尋の目に似ている。

 そう思った瞬間、「君、両親やお兄さんって身長どのくらい?」と恭弥は尋ねていた。突然の話題転換だったが、光希はすぐに、

「身長ですか? 兄ちゃんは一八〇センチに届くか届かないかくらいで、父さんと母さんも、年の割には背は高い方かな」

 と、答えた。身内の身長が高いということは、今はまだ自分と同じくらいの光希の背も高校に入ってからガンガン伸びる可能性が高い。

 千尋ほどの長身とは言わなくとも、少なくとも自分よりも十センチほどは高くなるだろう。そうすればもっと、光希は千尋に近づくに違いない。

「僕にふさわしい男になれるのなら、考えてあげてもいいよ」

 御幸、と譲が声をかけるが、恭弥の口からはするすると言葉が紡ぎ出される。 

「背が高くて格好よくて頭がよくて運動もできて……そういう完璧な男じゃないと、僕は付き合う気なんてないから」

 すべて千尋のことを思い出しての言葉だった。それを知らずに、光希は「はい!」と元気よく返事をする。

「でも何から始めたらいいですかね?」

 お伺いを立てる素直な光希に対して、何も考えていなかった恭弥は、隣に座る譲に助けを求める視線を向けた。

 仕方ない、という表情を崩さずに、譲はこう提案をした。

「身長が伸びたり超イケメンに一瞬でなったりできないんだから、頭がいい、をクリアするべきじゃない?」

 なるほど、と恭弥は考える。頭がいい。少なくとも自分と同じくらいの知性を身に着けてもらわなくては話にならない。

 そこで恭弥は、光希へと条件を提示した。自分が卒業した高校と同程度の偏差値である有名私立高校・海棠(かいどう)高校への合格を突きつけたのである。

4話

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