クレイジー・マッドは転生しない(50)

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クレイジー・マッドは転生しない

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49話

 部活終わりの生徒たちすら帰宅した時間、誰もいない教室に映る影。シルエットからそれが、女子生徒だということはわかる。

 彼女は辺りを気にするようにキョロキョロしながら、教室中央付近の座席に近づいた。机の中を探り、何かを取り出す。その瞬間、薄闇に包まれていた教室に明かりが灯る。

「そこまでですわ」

 凛々しい声と姿に驚き、少女は表情を歪めた。目当ての物を手に入れたことで笑っていた彼女は、不意を突かれて醜い表情をこちらに向けていた。こちらが俺を除いて美少女と美男子と見紛う美女が勢ぞろいしているのとは、対照的だった。

 普通にしていれば、少女も可愛い顔をしているのだろう。いかんせん、心証が悪い。彼女が持っているのは、呉井さんがわざと置いていった財布だった。

 動けないでいる少女に、呉井さんはつかつかと近づいていく。その手から財布を取り、自分の頬に添えた。

「これは、わたくしの、財布ですわよ?」

 にぃ、と笑う。普段は自分が美しいと意識していない呉井さんが、自分の美貌を、相手を威圧するために最大限に発揮しているのがわかり、俺は恐怖と高揚を同時に感じる。目が離せなかった。

「あ、あの、私、たまたま……」

「たまたま? 一年が二年の教室にわざわざ来ておいて? しかも誰もいない時間に?」

 すでに少女が誰なのか、俺たちにはわかっていた。

 森河に呉井さんが告白されたという一件くらいしか、俺たちに手がかりはなかった。森河少年が好きな子の気を引くために悪戯をした、という可能性もわずかにあったが、彼は呉井さんの身に起きたことを知らなかったからシロだ。

 憧れの人に話しかけられた森河は舞い上がり、聞かれたことについてはすべて正直に答えてくれた。彼はクラスの中心人物というわけではなく、呉井さんに告白したことについて知っている人間も、限られた友人だけだった。

 いつも一緒にいる親友二人と、幼なじみの女子……。

 ピンと来たのは、普段リア充女子を相手にしている柏木だった。

『その女子、怪しいんじゃない?』

 と。

 俺にはよくわからない。何せ恋愛なんてラノベでしか知らない。ラノベ、すなわちオタク男子の夢であって、リアルな恋愛感情とはかけ離れている。や、平凡主人公がなんやかんやで美少女ハーレムとか、普通ないじゃん? 

 そして呉井さんは呉井さんなので、恋とかそういうものを超越しているので、役に立たない。

 柏木は少女漫画から始まってドラマを見て恋愛を学習し、女子同士の恋バナでかなり深いところまで見聞きしている。

『だって高校生だよ? この年で異性の幼なじみにベタベタする? 絶対あの森河って子のこと好きなんだよ!』

『根拠は?』

『勘!』

『妄想の間違いだろうが』

 というやり取りをしつつ、柏木を中心に、森河周辺に聞き込みをした。

51話

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