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<18話
村人たちと赤鬼が、子供たちと一緒に歌って踊っている。もうすぐエンディングだ。
子供たちは、冬夜の願いを受け取ってくれるだろうか。今は意味がわからなくても、近い将来、思い出してくれるのなら、それでいい。
村人たちと別れた赤鬼の香山は、青鬼の住処にやってくる。そこに青鬼の姿はなく、一通の手紙だけが、残されている。
赤鬼は、手紙を音読した。
『赤鬼へ。
村人と仲良くなれてよかったな。俺と一緒にいるところを、村人たちに見られたら、この作戦は失敗だ。
だから俺は、遠い、遠いところに引っ越す。
もう会うことはないだろう。
村人たちと、いつまでも仲良くな。
さようなら。青鬼より』
読み終わってから、「そんな」と香山は呆然とした声を出した。
『青鬼くん。青鬼くん……! 僕は君とも、ずうっと仲良くしていたかったんだよ』
しくしくと泣き真似をしている香山を、子供たちは黙って見ていた。やがて香山は顔を上げて涙を拭き、迎えに来た村人たちに手を振って、笑いながら近づいていき、そのまま舞台からはけた。
誰もいなくなったステージに、橋本が上がる。子供たちに静かに語りかける。
「みんな、青鬼くんのこと、どう思う?」
戸惑っていた子供たちが、次第に「いい奴だった!」「かわいそうだった」と声を上げ始める。
冬夜はそれを聞いて、心が満たされていくのを感じた。伝わった。わかってくれた。
コンプレックスは誰にでもある。けれど、その何倍も、長所を持っている。他人の、そして自分のいい部分に目を向けて生きていってほしい。
この劇を通じて、冬夜は子供たちに伝えるだけではなく、自分自身にも言い聞かせていた。
「そうだね。みんな、赤鬼くんとだけじゃなくて、青鬼くんとも仲良くできるかな?」
「できるー!」
橋本が、舞台を振り返った。
「出て来いよ、青鬼くん!」
この展開は予想しておらず、冬夜はうろたえた。本当に出て行ってもいいのだろうか。赤鬼の香山は、先に舞台に出て行って、微笑みながらこちらに手招きをしている。
「青鬼くんは照れ屋さんなんだよねえ。みんな、せーので青鬼くんを呼んでみよう! せーの!」
「青鬼くーん!」
冬夜は腹をくくって、舞台に姿を現した。子供たちは泣きだすのではなく、笑顔だった。ためらいつつ、冬夜は小さく手を振った。
「それじゃ、青鬼くんと赤鬼くんと、遊ぼうぜ!」
橋本が「それいけ!」とけしかけると、子供たちが「きゃー!」と悲鳴を上げながら、冬夜たちに駆け寄ってきた。
子供のエネルギーは凄まじい。もみくちゃにされて、冬夜は叫び声をあげて、尻もちをついた。
痛いのに、冬夜は笑った。視界の端に、はらはらしていた慎太郎もまた、微笑んでこちらを見つめているのが映った。
>20話
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