臆病な牙(19)

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18話

 村人たちと赤鬼が、子供たちと一緒に歌って踊っている。もうすぐエンディングだ。

 子供たちは、冬夜の願いを受け取ってくれるだろうか。今は意味がわからなくても、近い将来、思い出してくれるのなら、それでいい。

 村人たちと別れた赤鬼の香山は、青鬼の住処にやってくる。そこに青鬼の姿はなく、一通の手紙だけが、残されている。

 赤鬼は、手紙を音読した。

『赤鬼へ。

村人と仲良くなれてよかったな。俺と一緒にいるところを、村人たちに見られたら、この作戦は失敗だ。

だから俺は、遠い、遠いところに引っ越す。

もう会うことはないだろう。

村人たちと、いつまでも仲良くな。

さようなら。青鬼より』

 読み終わってから、「そんな」と香山は呆然とした声を出した。

『青鬼くん。青鬼くん……! 僕は君とも、ずうっと仲良くしていたかったんだよ』

 しくしくと泣き真似をしている香山を、子供たちは黙って見ていた。やがて香山は顔を上げて涙を拭き、迎えに来た村人たちに手を振って、笑いながら近づいていき、そのまま舞台からはけた。

 誰もいなくなったステージに、橋本が上がる。子供たちに静かに語りかける。

「みんな、青鬼くんのこと、どう思う?」

 戸惑っていた子供たちが、次第に「いい奴だった!」「かわいそうだった」と声を上げ始める。

 冬夜はそれを聞いて、心が満たされていくのを感じた。伝わった。わかってくれた。

 コンプレックスは誰にでもある。けれど、その何倍も、長所を持っている。他人の、そして自分のいい部分に目を向けて生きていってほしい。

 この劇を通じて、冬夜は子供たちに伝えるだけではなく、自分自身にも言い聞かせていた。

「そうだね。みんな、赤鬼くんとだけじゃなくて、青鬼くんとも仲良くできるかな?」

「できるー!」

 橋本が、舞台を振り返った。

「出て来いよ、青鬼くん!」

 この展開は予想しておらず、冬夜はうろたえた。本当に出て行ってもいいのだろうか。赤鬼の香山は、先に舞台に出て行って、微笑みながらこちらに手招きをしている。

「青鬼くんは照れ屋さんなんだよねえ。みんな、せーので青鬼くんを呼んでみよう! せーの!」

「青鬼くーん!」

 冬夜は腹をくくって、舞台に姿を現した。子供たちは泣きだすのではなく、笑顔だった。ためらいつつ、冬夜は小さく手を振った。

「それじゃ、青鬼くんと赤鬼くんと、遊ぼうぜ!」

 橋本が「それいけ!」とけしかけると、子供たちが「きゃー!」と悲鳴を上げながら、冬夜たちに駆け寄ってきた。

 子供のエネルギーは凄まじい。もみくちゃにされて、冬夜は叫び声をあげて、尻もちをついた。

 痛いのに、冬夜は笑った。視界の端に、はらはらしていた慎太郎もまた、微笑んでこちらを見つめているのが映った。

20話

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