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<9話
千尋を交えた勉強会は思った以上にスムーズだった。土曜日の深夜にくたくたになった千尋を迎え入れて、日曜日に回復した千尋が光希の理科と数学の面倒を見、そして彼が作った昼食を食べて、神崎が迎えに来るまでまた勉強。
夕方にチャイムが鳴ると、恭弥は二人をリビングで見送る。神崎の顔など見たくないからだ。しかし、こっそりと覗き込みたい好奇心には勝てず、窓から三人が帰宅するのを見つめていた。
光希と神崎が二人で並び、少し後ろを千尋がついていく。ぴんと伸びた背筋が街灯に照らされて美しい。知らず、恭弥は溜息をついた。
会話に夢中になっている様子の光希が、不意に恭弥の住む学生マンションを見上げた。目が合ったような気がして、恭弥は咄嗟に隠れた。
自分の好きな男と、自分を好きな男が同じ空間にいる。光希は、恭弥が千尋にずっと恋をしているということを知らない。言うことはできない。
そっと窓の外を再び覗いてみると、もう彼ら三人の姿はなく、ほっとした。しばらくそのままぼんやりとしていると、ポケットに入れていたスマートフォンが震えた。
光希も千尋も律儀で、電車に乗ったり帰宅をすると必ずメッセージをくれる。きっとどちらかだ。千尋だったらいいなぁ、と操作して、溜息をつく。
SNSのリプライ通知だった。友人のではなく、例のストーカーのものだ。何度ブロック操作を行っても、アカウント名を変えてメッセージを送ってくる。最近は呟くのを控えているにも関わらず、二日に一度は気持ちの悪いメッセージを欠かさない。
見なかったことにして、スマートフォンをしまった。譲に相談しなければ、と思ったが、それは今すぐでなくてもよい。
恭弥はそのまましばらくの間、すでに姿のない三人の跡を見つめていた。
>11話
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