重低音で恋にオトして(16)

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15話

 長い夏休みが終わり、十月。キャンパスはいよいよ秋めいてきて、もう一枚、上着を持ってくるべきだったな、と敬士はくしゃみをした。

「フツーはガイダンスだろ……がっつり講義しやがって」

 冬学期一発目の講義から、時間を延長する講師のせいで、学食に響一をひとりで待たせてしまっている。

 メッセージは先ほど確認して、スタンプだけ送っておいたが、果たして見てくれただろうか。

 早足で学食に辿り着くと、もうすでに座席の大半は埋まっている。

 この中から目当ての人物を探すのはさすがに大変だ。キョロキョロと響一の姿を求めて辺りを見渡す。奥の方にいるのを発見して、声を上げて駆け寄ろうとした敬士だが、その近くに立っている人物を見つけて、歩みを止めた。

 石橋である。長期休暇でリフレッシュして毒気が抜けていれば、と思ったが、そんなことはなかったようだ。

 人を小馬鹿にした笑いを唇に浮かべ、何が面白いのか、響一にずっと突っかかっている。

 これはオレが、助けに行かなければ!

 敬士は肩を怒らせて、ずんずんと二人の席に接近する。

 だが、口を開くまでもなかった。

「石橋さん、俺たちのことホモだホモだってうるさいですけど、あなたの方こそ、敬士くんに粘着しすぎて怪しいですよ」

 響一の言葉から察するに、どうやら石橋は、「お前らいつも一緒にいやがって。ホモかよ!」など、侮蔑的なことを言ったらしかった。

「は? はぁ? お前、何言って」

 よもや自分の方に攻撃がまっすぐ返ってくるとは思わなかった石橋が、慌てて言い訳をしようとするも、響一はまるで取り合わなかった。

「別に俺たちが友人だろうが恋人だろうが、あなたには関係ありません。それに、俺にかまう暇、あるんですか? 夏学期のレポート、全然出してなかったって聞きましたけど。それから、試験の点数も」

 さらりと、心配する風でもなく淡々と事実を突きつけた響一は、もはや石橋の方を見ていない。手にした文庫本を開き、完全に読書の体勢である。

 自分のコンプレックスを、相手を見下し攻撃することで解消しようとする石橋は、無視されるのが、一番堪える。

 しばらくパクパクと口を動かしていた彼は、やがて鼻息を荒くして、その場から立ち去った。

「やるじゃん」

 ひとりになったところに声をかけると、すぐさま本を閉じて、こちらに微笑みを向ける。

「うーん。でもさあ、さすがにあいつがオレのことをどうこう、とかはないって。ないない」

 だって昔からオレ、馬鹿にされ続けてきたし。

 そんな風に言うと、響一は、ぐいと敬士の腕を引いた。表情は拗ねているというか、怒っている。

「素直でかっこよくて可愛い敬士くんなんだから、誰に狙われてるか、わからないでしょ」

「っ」

 重低音が甘く響き、全身に疼きが広がる。恋人になったおかげで、さらに彼の声に弱くなった気がする。

 思わず腰が抜けそうになって、

「そういうのは、大学ではやめろよ……!」

 と、敬士は真っ赤な顔で抗議することしかできなかった。

(終)

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