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<12話
二人で遊びに行く定番の場所は、映画館のレイトショーだ。
九月、まだ余裕で夏休み中の冬夜は、寝坊しても支障がないのをいいことに、話題の映画を慎太郎とともに、いくつも見に行っていた。
「す……っごく面白かったな!」
冬夜は興奮した口調を隠さなかった。これはパンフレットを買わなければなるまい。売店はすでに閉まっているから、別の映画を見に来たときに必ず、と心に決めた。
早く感想を言いあいたくて仕方がない冬夜に対し、慎太郎はどこか、上の空だった。冬夜の話など聞いてはいない。
「慎太郎?」
再び名前を呼んで、今初めて気がついたという顔をした。不審そうにしている冬夜に気がついたのだろう、慎太郎は曖昧に微笑んだ。
首を捻りながら、冬夜は一人、トイレへと向かう。途中、離れたところから様子を伺うと、慎太郎はぼんやりと虚空を見つめているようだった。
ただでさえ背が高いのに、ただ突っ立っているだけの慎太郎は、非常によく目立った。
用を足して戻ると、慎太郎が若い女性から、声をかけられているのに気がついた。
「慎太郎」
声をかけると、女性は振り返って、冬夜を視界に入れ、すぐに立ち去った。
「なに、逆ナン?」
「そうみたいだね」
冬夜と二人のときは、決して声をかけられない。別に女性にもてたいというわけではないが、なんとなくもやもやする。慎太郎がいつもどおりなのが、より拍車をかけている。
帰りの電車で運よく座れたので、冬夜は延々と、慎太郎に映画の感想を述べ続けた。いつもならば、慎太郎も乗ってきて、彼の家で夜通し語り合うことだってある。
だが、やはり今日の彼は、どこかおかしい。口元に微笑みを湛えているものの、慎太郎は小さく頷くばかりだ。
「映画、趣味じゃなかったか?」
だとしたら、感想を一方的に語られるのはストレスだろう。不安になって尋ねてみると、慎太郎はすぐに首を横に振った。
「面白かったと思うよ」
そしてまた、黙りこくる。
映画は、ロミオとジュリエットとスターウォーズを掛け合わせたような話で、宇宙人との恋に落ちた地球人がヒロインだった。
ラストシーンでは、死んでしまった恋人の子供を彼女が抱いていたのだが、そこまでの道のりを思い返して、涙ぐんでしまった。
最近見た中では一番だったが、慎太郎はあまり気に入っていないらしい。
アクションもすごかったし、CGも本物に見えるほど、精巧に描かれていた。その手の映画のどれも、慎太郎も面白がっていた。
「……なんか、悩みでもあるの?」
「え?」
先日の花火大会で、慎太郎は冬夜を褒めて、励ましてくれた。いや、この間だけではない。いつだって慎太郎は、嬉しい言葉をくれる。
彼の元気がないのなら、自分が力になりたいと思うのは、冬夜にとっては自然なことだった。
しかし、冬夜の心配をよそに、慎太郎はただ、笑うだけだった。貼りついたようなその表情に、冬夜は漠然とした不安を覚える。
「大丈夫だよ」
そう言い張る彼を問い詰めるのも野暮で、冬夜はそのまま口を噤んだ。
>14話
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