<<はじめから読む!
<14話
ゲームの会場は、駅ビルの中全部。ゲームのルールは、とても簡単。
「このビルの中にいる恵美を、二時間以内に見つけることができたら、私たちの勝利です」
背が高いイケメンだ。学校でなくても、あれは目立つ。楽勝じゃないかと言うと、呉井さんは面白そうだった。
「恵美は変装の名人ですから。ちょっとやそっとじゃ、見つかりませんよ?」
二人で一緒に探すよりも、別れた方が効率がいい。俺は上から、呉井さんは下から、仙川を捜索することにした。
ちなみに、なぜこんなことをするのかといえば。
「異世界に転生した場合、外見が以前とはすっかり変わってしまうことがあるそうですね。たとえどんな姿かたちになったとしても、前世での知り合いを見つけるための訓練のためなのです」
呉井さんは胸を張った。表情は真剣そのもので、街中を舞台とした規模の大きい鬼ごっこやかくれんぼだと言うことはできなかった。
幸いにして、このビルは屋上が開放されていない。最上階は十階。一個下の九階とともに、レストランフロアである。和食にフレンチ、中華料理にエスニック。様々なカジュアルレストランが並んでいるが、いずれも開店直後で客は入っていない。俺が仙川なら、こんな人の少ない場所で見つからないように隠れることは、至難の業だ。ここにはいないだろうと当たりをつけて、チラ見程度で一応、探索はしてみる。
「って、瑞樹先輩? 何してるんですか?」
パンケーキ専門カフェに通りかかったとき、通路に張り出したオープンテラス風の座席に座り、優雅に水のグラスを傾ける瑞樹先輩を発見してしまい、思わず声をかけた。
「言ったじゃないか。僕はいつも通り、別行動だ、って」
二手に分かれて探すことになったとき、俺は「瑞樹先輩は?」と疑問を口にした。そのときの瑞樹先輩の回答に、呉井さんは頷いて了承した。てっきり俺は、頭脳プレーで瑞樹先輩は仙川を追いつめてくれるもんだと解釈していた。
「建物の中で涼しいとはいえ、一生懸命探すのは疲れちゃうよ。僕は体力が、人一倍ないんだ。だから、恵美さんを探すのは君たちに任せた」
その言葉の直後、店員が「お待たせいたしました!」と、パンケーキを運んでくる。
「当店自慢のフルーツパンケーキです」
生クリームとフルーツがたっぷり乗ったパンケーキに、瑞樹先輩は歓声を上げた。カフェに来た女子が必ずやるように、スマートフォンで写真を一枚だけ撮る。特に「映え」にこだわりはないらしく、写真の出来不出来よりも、早く食べたいという欲求が勝っている。
ぷくぷくした手で、ナイフとフォークを取る。おてて、と形容したくなる赤ん坊のような手だ。小さく切った一口を幸せそうに頬張る瑞樹先輩を見て、俺は何を言っても無駄だと悟った。
そもそも呉井さんが、別行動という名の休憩を認めているのだから、俺に文句を言う筋合いはないのだった。早く仙川を探しに行かないと、時間が勿体ない。
先輩は食べるのに夢中で、俺の方を気にかけてはいないが、一応一声だけかけておく。
「じゃあ俺、仙川先生を探しに行きますね!」
返事を聞かずに背を向けたところで、
「ねぇ、明日川くん」
と、声をかけられたのでびっくりする。明らかにパンケーキの方が俺よりも大事だろうに。再び瑞樹先輩に向き直ると、彼は案の定、俺を見ずに目の前の皿ばかりを見ていた。
「意味のないことに付き合ってくれて、ありがとうね」
「……先輩?」
瑞樹先輩の言葉に、眉根を寄せた。どことなく険をはらんだ声音だった。
呉井さんがこのゲームの理由を説明してくれたのに、無意味とはどういうことか。しばらく俺は、そのまま瑞樹先輩の説明を待ってみたが、彼はこれ以上は本当に、何も言うつもりがないらしい。
諦めて、俺はそっとその場を離れた。
>16話
コメント