短編小説

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短編小説

モザイクタイルの指先

へっくち、と亜里沙ありさはくしゃみをした。思わず赤面して、両手で口から鼻までを隠した。手袋の毛糸がチクチクする。 ミトン型の手袋は、中学二年生にしては幼いデザインだ。じっと掌を見つめていると、次第に子供でしかない自分に腹が立ってくる。 しゃ...
ホラー

最高のミートソース

母は、料理上手な人だった。専業主婦として、持て余した時間を、すべて夕食の支度に使ってしまうような人だった。 だから私の家の食卓には、ほとんど毎日、誕生日とクリスマスがいっぺんにやってきたようなごちそうが並んでいた。 なんでもやってみたい年頃...
ファンタジー

涙屋の未亡人

細い装飾文字で書かれた看板を前に、カールはお仕着せの鎧の泥を拭った。兜を脱いで、髪の毛を手ぐしで整える。蒸れてぺたりと寝てしまった自慢の金髪は、なかなか納得できる形にはならない。 悪戦苦闘するカールだったが、不意に店の扉が開いた瞬間、動きを...
短編小説

空似の義兄

きっかけは、テツヤ(あるいはナオキ、だったかもしれない)の一言だった。 十年以上経った今でも、幸雄ゆきおは鮮明に覚えている。『えっ、お前らって、双子じゃねぇの!?』 彼は、幸雄と康之やすゆきの顔を交互に見た。 小学校四年。十歳。成人の半分の...
ファンタジー

王女様は本の虫

天使の指先がページを捲るのを、エミールはしばらく眺めていた。装飾品などひとつもつけていないのに、真珠のように真っ白に輝いている。 じっと、群青色に瞬く目を、手元の本に向ける。はらり、と額にかかったのは夜と夕の狭間の、淡い光を放つ藍の色をした...
短編小説

きらきら星のばんそう者

黒板の前で発言をするのは、優等生と相場が決まっている。一度も染めたことがないだろう黒髪を、きっちりと二つに結んだ副委員長を従えて、学級委員の眼鏡の少年が、か細い声を精一杯張り上げている。 私は不自然にならないように、辺りを窺った。こういうと...
ホラー

のしかかる時の十字架

男の怒鳴り声はいつも、秋生あきおの心を容赦なく殴りつけ、急速に冷やしていく。例え対象が自分ではなかったとしても、敏感すぎるきらいのある秋生は、自分のこととして受け止めてしまう。  横目で見ると、皿を割ってしまった新人の女子大生が、店長から厳...
BL

夢の尾ひれはもう掴めない

ゆらゆらと揺れる水面も、自分の在学中には外にあったプールが今や屋内に作られていることで、日の当たり方が違うような気がした。窓ガラスと水、二つの物質を通過した光は果たして、自分が屋外で浴びる光と同じだと言えるのだろうか。 尤も学生時代に一番不...
短編小説

桜待人

四月になってカレンダーは桜の花の写真に切り替わったが、実物を目にするまでにはあと一か月弱。それでも私は、今日から通うこの市立高校の桜並木に満足していた。 野暮ったいセーラー服――タイも紺色で、黒のラインが入っている重い色合いの――に袖を通す...
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