短編小説

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BL

保護中: Stolen Ordinary

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短編小説

海を泳ぐ月

廊下側の後ろから二番目の席は、ほぼ対角線上にある、窓際の一番前にいる彼を観察しやすくて、私のお気に入りの席だ。 「森もりー。森海かいー。ここの訳」  その後三回、先生は彼の名前を呼んだ。ようやく自分があてられていることに気がついた森くんは、...
短編小説

拝啓 ゴッドファーザー様

飛行機を降りた瞬間、熱気が襲ってきた。 「あ……っつーい!」  誰よもう、北海道は涼しいなんて言った奴は! と憤慨しつつ、日よけのカーディガンを脱ぐ。機内アナウンスで「現地の気温は現在二十六度、予想最高気温は三十一度……」と流れていたのは空...
短編小説

魔女の爪は赤い

「なぁ。その赤い口紅、やめない?」  浩司こうじの言葉に、私はメイクの手を止めた。今まさに繰り出していたのは、広義の「赤」リップだ。この秋冬の流行であるテラコッタに近い色味は、いくつものブランドをはしごして手に入れた。私に似合う色を吟味して...
ホラー

リトライアンドエラー

やってきたバスに乗り込んで、ほっと一息ついた。  東京から新幹線で、三時間弱。そしてさらに、地元の電車に乗った。だいぶ北にやってきたので、涼しいと思っていた。なのに、真夏の太陽は容赦なく、俺のことを焼き焦がす。  ガラガラの車内の、一番後ろ...
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モザイクタイルの指先

へっくち、と亜里沙ありさはくしゃみをした。思わず赤面して、両手で口から鼻までを隠した。手袋の毛糸がチクチクする。  ミトン型の手袋は、中学二年生にしては幼いデザインだ。じっと掌を見つめていると、次第に子供でしかない自分に腹が立ってくる。  ...
ホラー

最高のミートソース

母は、料理上手な人だった。専業主婦として、持て余した時間を、すべて夕食の支度に使ってしまうような人だった。  だから私の家の食卓には、ほとんど毎日、誕生日とクリスマスがいっぺんにやってきたようなごちそうが並んでいた。  なんでもやってみたい...
ファンタジー

涙屋の未亡人

細い装飾文字で書かれた看板を前に、カールはお仕着せの鎧の泥を拭った。兜を脱いで、髪の毛を手ぐしで整える。蒸れてぺたりと寝てしまった自慢の金髪は、なかなか納得できる形にはならない。  悪戦苦闘するカールだったが、不意に店の扉が開いた瞬間、動き...
短編小説

空似の義兄

きっかけは、テツヤ(あるいはナオキ、だったかもしれない)の一言だった。  十年以上経った今でも、幸雄ゆきおは鮮明に覚えている。 『えっ、お前らって、双子じゃねぇの!?』  彼は、幸雄と康之やすゆきの顔を交互に見た。  小学校四年。十歳。成人...
ファンタジー

王女様は本の虫

天使の指先がページを捲るのを、エミールはしばらく眺めていた。装飾品などひとつもつけていないのに、真珠のように真っ白に輝いている。  じっと、群青色に瞬く目を、手元の本に向ける。はらり、と額にかかったのは夜と夕の狭間の、淡い光を放つ藍の色をし...
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