短編小説

スポンサーリンク
ホラー

魔のめざめ

濃い灰色の雲が、重苦しく立ちこめる朝だった。鶏が鳴いても、太陽が顔を出さない。春とは名ばかりの、肌寒い日。  暖炉に火をつけるかどうか、姑と夫は軽く言い合いをしていた。  数日前、もう暖房は必要ないだろうと結論していたため、夫は火を炊くこと...
短編小説

大根抜きの女王

五月の連休が明けても、時折肌寒い日がある。名残の桜がひらりと舞い落ちるのを後目に、俺は校門を急ぎ足で一歩踏み出す。 「川崎かわさき、お前、本当に部活やらなくていいのか?」  中学の部活は必修じゃない。転校以来、先生がしつこく誘ってくるのは、...
BL

ほおずき、弾けて

九月の夜。東京と比べて涼しいと見越して長袖を持参したが、必要なかったかもしれない。  店内は冷房が稼働しているにもかかわらず、宴会場の襖を明けた瞬間に、熱気がこちらへと向かってきた。 「今日の主役がようやくお出ましだぞー」  長い大学の夏休...
短編小説

私のお母さん

産みの親と育ての親が違うのは、まれによくある。  積極的には言わないけれど、親密になるにつれて、打ち明け話をするようになる。一般家庭の子には同情され、腫れ物扱いされる場合もあるけれど、「実は……」と、お互いの秘密を共有する友人もいた。  人...
短編小説

耳たぶの献身

盆の季節、田舎の居酒屋は繁盛している。「しゃーせー!」と、若いアルバイト店員の威勢のいい声は、半ばやけくそに聞こえた。  広い座敷を一間借り切っての高校の同窓会は、年に一、二回開催されているが、私が出席するのは、久しぶりのことだった。 「芙...
短編小説

バイバイバグ

今日も散々だった。  夜になってもちっとも涼しくならない中、ふぅふぅと息を切らして坂道を上る。デブではないが、年齢のわりにだるんとした身体は、上り坂にすぐにくじけてしまう。  家賃の兼ね合いで選んだ家だが、もっと不動産屋で粘るべきだった。 ...
短編小説

ウィンターアゲイン、アンドアゲイン

冬の寒さは、人から口数を奪う。だから、北の人間ほど、無口になるんじゃなかったか。  函館空港に降り立った俺の周りには、浮かれた連中しかいなかった。  雪を見て、はしゃいでいる子ども、追う父親。母親は赤ん坊をあやしながら、スーツケースにもたれ...
BL

保護中: キスをとばして(2)

このコンテンツはパスワードで保護されています。閲覧するには以下にパスワードを入力してください。 パスワード:
BL

キスをとばして(1)

世話になった同期の頼みだからって、ほいほい聞くんじゃなかった。 「うっ」  口元を押さえ、篤志あつしはえずく。明らかに酔っ払いの醜態だが、篤志はほとんど飲んでいなかった。 「大丈夫ですか?」  気遣いの言葉とともに手渡されたペットボトルは、...
短編小説

寒空にフラペチーノ

別に後ろめたいことをしているわけじゃない。なのに、目当ての階のボタンを押すのには、勇気が必要だった。  すまし顔をして、一階から順に上がっていく階数表示をじっと見る。四階で降りたのは私ひとりだけで、ホッとした。  これ以上、「他の会社に用が...
スポンサーリンク