短編小説 ウィンターアゲイン、アンドアゲイン 冬の寒さは、人から口数を奪う。だから、北の人間ほど、無口になるんじゃなかったか。 函館空港に降り立った俺の周りには、浮かれた連中しかいなかった。 雪を見て、はしゃいでいる子ども、追う父親。母親は赤ん坊をあやしながら、スーツケースにもたれ、... 2023.06.02 短編小説青春
BL キスをとばして(1) 世話になった同期の頼みだからって、ほいほい聞くんじゃなかった。「うっ」 口元を押さえ、篤志あつしはえずく。明らかに酔っ払いの醜態だが、篤志はほとんど飲んでいなかった。「大丈夫ですか?」 気遣いの言葉とともに手渡されたペットボトルは、ひんや... 2023.05.23 BL短編小説
短編小説 寒空にフラペチーノ 別に後ろめたいことをしているわけじゃない。なのに、目当ての階のボタンを押すのには、勇気が必要だった。 すまし顔をして、一階から順に上がっていく階数表示をじっと見る。四階で降りたのは私ひとりだけで、ホッとした。 これ以上、「他の会社に用があ... 2023.02.03 短編小説青春
短編小説 旬を過ぎたら、 「旅行に行かないか?」 付き合いで見始めた映画が案外面白く、夢中になっていたせいで、反応が一瞬遅れた。「え」 トシキの顔をまじまじと見る。彼はまっすぐにテレビを見ていて、一見すると、映像にのめり込んでいる様子だ。 けれど、本当は違う。身体は... 2022.12.02 短編小説青春
短編小説 ヘミオラのウサギ 机の天板を雑巾で拭くと、ガタゴトと音を立てて、ぐらつくものがある。授業中にノートを取っているときに、気にならないものだろうか。 確かこの席は、学年一位の内藤ないとうくんが座っている。弘法筆を選ばず、というやつなのかもしれない。秀才は、どん... 2022.10.07 短編小説青春
ホラー 豊嶋玲子に関する考察 『豊嶋とよしま玲子れいこは、A県出身の女優だった。昭和〇〇年に上京し、Xという劇団に所属した。地元では評判の小町娘だったが、舞台では主役はおろか、せりふのある役につくこともほとんどなかった。 彼女が有名なのは、女優としての功績ではない。日本... 2022.06.03 ホラー短編小説
ホラー 蒐集家(コレクター) それは、一人の女だった。私は棒立ちになり、一歩も動けないまま息を呑み、見つめていた。 彼女は豊満な肉体のすべてを露わにしていた。一糸纏わぬ女など、私は人生の中で母以外に見たことはなかったし、それすら幼い頃の記憶を掘り起こさなければ出てこな... 2022.04.06 ホラー短編小説
ホラー 前へならえ 運動部の新入生なんて、だいたい先輩面をしたい二年生から、体よく使われるに相場が決まっている。 どうでもいい自慢話を「さすがっすね」と持ち上げなければならない。あるいは、ストレス解消の的にされたりする。 特に、レギュラー争いに一ミリも関わっ... 2022.04.01 ホラー短編小説青春
ホラー 雨宿り ギギ……チリン。 あら、いらっしゃい。初めてのお客さんね。 こんな天気だから、お客さんも来ないし、もう閉めちゃおうと思っていたの。ああ、大丈夫! 追い出したりしないわ。 迷惑なんかじゃない。来てくれて嬉しいわ。あなたを待っていたの……なん... 2022.02.04 ホラー短編小説