短編小説

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短編小説

耳たぶの献身

盆の季節、田舎の居酒屋は繁盛している。「しゃーせー!」と、若いアルバイト店員の威勢のいい声は、半ばやけくそに聞こえた。  広い座敷を一間借り切っての高校の同窓会は、年に一、二回開催されているが、私が出席するのは、久しぶりのことだった。 「芙...
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バイバイバグ

今日も散々だった。  夜になってもちっとも涼しくならない中、ふぅふぅと息を切らして坂道を上る。デブではないが、年齢のわりにだるんとした身体は、上り坂にすぐにくじけてしまう。  家賃の兼ね合いで選んだ家だが、もっと不動産屋で粘るべきだった。 ...
短編小説

ウィンターアゲイン、アンドアゲイン

冬の寒さは、人から口数を奪う。だから、北の人間ほど、無口になるんじゃなかったか。  函館空港に降り立った俺の周りには、浮かれた連中しかいなかった。  雪を見て、はしゃいでいる子ども、追う父親。母親は赤ん坊をあやしながら、スーツケースにもたれ...
BL

保護中: キスをとばして(2)

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BL

キスをとばして(1)

世話になった同期の頼みだからって、ほいほい聞くんじゃなかった。 「うっ」  口元を押さえ、篤志あつしはえずく。明らかに酔っ払いの醜態だが、篤志はほとんど飲んでいなかった。 「大丈夫ですか?」  気遣いの言葉とともに手渡されたペットボトルは、...
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寒空にフラペチーノ

別に後ろめたいことをしているわけじゃない。なのに、目当ての階のボタンを押すのには、勇気が必要だった。  すまし顔をして、一階から順に上がっていく階数表示をじっと見る。四階で降りたのは私ひとりだけで、ホッとした。  これ以上、「他の会社に用が...
短編小説

旬を過ぎたら、

「旅行に行かないか?」  付き合いで見始めた映画が案外面白く、夢中になっていたせいで、反応が一瞬遅れた。 「え」  トシキの顔をまじまじと見る。彼はまっすぐにテレビを見ていて、一見すると、映像にのめり込んでいる様子だ。  けれど、本当は違う...
短編小説

ヘミオラのウサギ

机の天板を雑巾で拭くと、ガタゴトと音を立てて、ぐらつくものがある。授業中にノートを取っているときに、気にならないものだろうか。  確かこの席は、学年一位の内藤ないとうくんが座っている。弘法筆を選ばず、というやつなのかもしれない。秀才は、どん...
ホラー

豊嶋玲子に関する考察

『豊嶋とよしま玲子れいこは、A県出身の女優だった。昭和〇〇年に上京し、Xという劇団に所属した。地元では評判の小町娘だったが、舞台では主役はおろか、せりふのある役につくこともほとんどなかった。  彼女が有名なのは、女優としての功績ではない。日...
ホラー

蒐集家(コレクター)

それは、一人の女だった。私は棒立ちになり、一歩も動けないまま息を呑み、見つめていた。  彼女は豊満な肉体のすべてを露わにしていた。一糸纏わぬ女など、私は人生の中で母以外に見たことはなかったし、それすら幼い頃の記憶を掘り起こさなければ出てこな...
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