青炎は銀の御巫の愛に燃ゆ(18)

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(17)

 結局、レイニとホムラがゆっくりと話をすることができるようになったのは、戦闘終了から一ヶ月後のことだった。

 レイニの父が他の族長たちとともに、帝国との講和を有利に結び、ティリアの族長は処刑され、新たな長が立った。もともとの族長一族とは、まったく無関係の家の出だ。

 国同士、民族同士の戦後処理については高度に政治的で、ホムラには理解できなかった。

 ホムラができるのは、傷ついた人々を励ましたり、復興作業に汗水を垂らすことだ。

「ホムラ様」

 精霊時代に住まわされていた庵を、ホムラはそのまま使っていた。夜になって戻ると、ようやく人心地ついた様子のレイニが、温かい茶を淹れてくれた。

「ホムラ様、お体は大丈夫ですか?」

 レイニは心配性で、昼夜問わず、何度も同じことを尋ねてくる。

 すっかり人間に生まれ変わったホムラだが、前世のひ弱な肉体とは違い、今の身体は頑健だ。人一倍、膂力もある。

 腕を曲げて、むん! と力を込めてみれば、筋肉は硬く盛り上がった。

「平気平気。精霊だったときだって、丈夫だっただろ? そういうところは引き継いでるっぽいんだよね」

 それよりも、とホムラは咳払いをする。話題の転換についてこられないレイニはきょとんとした顔をして、ホムラの言葉の続きを待つ。

「……レイニはいつまで、おれを『ホムラ様』扱いするんだ?」

 精霊だったときは、人間とは一線を画すためにも敬称は必要だった。しかし今、ホムラは何の力も持たない人間だ。身分もない。

 あるのはレイニへの想いだけだというのに、敬われる筋合いもない。

 実際、レイニ以外のナパールの民たちは、「精霊様」と呼んでいたホムラのことを呼び捨てにして、昔から一緒に暮らしていた同志であるかのように接してくれている。

「ホムラがレイニ様と夫婦になるっていうなら、ホムラ様って呼ばなきゃいけなくなるんだろうけれど、なんかしっくりこないよなあ」

 とは、昼間一緒になって家屋の建て直しをしていた男のセリフだった。

 レイニとホムラが生涯をともにする契りを交わす。

 ホムラが願うだけではかなわぬ夢を、皆が応援してくれている。

 自分たちが見下し、放棄した精霊が、レイニのため、ナパールのために戻ってきて、力を行使した。その末に力を失い、人間になったのだから、幸福になってもらわなければ困る……。

 ナパールの民の総意によって、レイニの結婚はお膳立てされている。

 婚約直前であったピアナは、呪具によって精霊を操った咎により、高位精霊によって魂までも焼き尽くされて「いなかったこと」とされた。覚えているのはホムラとレイニくらいのもので、弔う者は誰もいない。

 村がすっかり元通りになったら、結婚の宴をしよう。

 当の本人であるレイニを無視して、人々はこそこそと準備を進めている。

 早く結婚したいし、明日も頑張ろう。

 にやにやしているホムラを、レイニは不思議そうな顔で見つめていた。

「ホムラ様?」

「だーかーら、ホムラだっての」

「……ほ、ホムラ」

 照れて俯くレイニは、自分よりも大きいのに可愛らしい。彼の身体を抱き締めて、ホムラは元通りの逞しさを取り戻しつつある胸に擦り寄った。

「なぁ、レイニ。ごめんな。子どものときに憧れた精霊が、こんなんで」

「何をおっしゃるんですか」

 予想していたとおり、幼いレイニが精霊祭のときに見た精霊は、ホムラのことだった。微笑みを受け、一生を精霊に捧げると決めた。

 そのきっかけになるのが、元人間の半端者。なんだかちょっとだけ、申し訳ない。純粋な子どもを騙したような気がしてしまう……。

「あっ」

 がばりと顔を上げて、ホムラはぎゅっと眉根を寄せた。騙した「気」じゃない。実際、ホムラは彼を、人々を騙していたのだ。

「その、ごめん。本当に。おれ、火の精霊なのに水の精霊だって言って……」

「あなたが自分から言い出したんじゃないでしょう。こちらが勝手に勘違いしただけです。それに」

 レイニの赤い目が、甘さを含んでホムラに向けられる。

 人間になってよかったと思うのは、こういうときだ。精霊へ向ける恋心には、不純物――尊敬とか崇拝とか――が多く含まれる。

 恋情にその他の感情はいらない。レイニの目は雄弁に、ホムラへの愛を告げる。

「私は最初から、あなたを、あなただけを呼んでいたのですから」

 ああ、間違いじゃなかったんだ。

 精霊界で初めて聞いた声。自分を、自分だけを求めていると感じたのは、気のせいじゃなかった。

「あの日見た精霊であるあなたに、私は一生仕えると決めていたのです」

「……仕えるんじゃ、嫌だ」

 罪悪感は消え、ホムラは心からレイニに甘える。

「恋人にして。それで、おれと結婚して」

 まっすぐな告白に、レイニは目を輝かせた。それから、とびきりの笑顔をくれる。

「仰せのままに、ホムラ」

 あの日拒んだ口づけを、今は素直に受け入れることができる。

 お互いに手入れをしている暇などないせいで乾燥した唇を、潤わせていく。相互に舐めようとする舌先が触れると、レイニは辛抱できないというように、絡みつかせた。

「んっ、ふー……ううっ」

 初めての深いキスに、ホムラは目の奥がチカチカするが、どうにか食らいついていく。大丈夫。レイニがすることに間違いはない。

(ああ、気持ちいい……)

 うっとりと甘い吐息を零したホムラは、自分の身体に、とある不具合が起きていることに遅れて気づき、「わぁ」と声を上げた。

「ホムラ?」

「あの、さ、レイニ……これって、どうしたらいいんだろう?」

 ホムラはレイニを上目遣いで見やり、自身の股間を指した。

 人間の身体になってしばらく経つ。最も変化が大きかったのは、ホムラにもレイニや他の男たちのような――というには、いささか小ぶりで可愛らしい色の――性器がついたことだった。

 そしてそれは、レイニとこうしてくっついていると、硬く勃ち上がり、布を押し上げる。

 前世は身体が弱く、性的なことをする体力もなかったせいで経験はないし、知識はすべて抜け落ちしまっている。

 これまでは忙しかったから、こうなってもレイニに聞くこともせず、こそこそと寝台の中に隠れてやり過ごしていたのだが、ようやく復旧作業にも目処がついてきた。

 脳裏をよぎったのは、泉でベタベタと触れ合っていた恋人たち。男の手が、女の服の下に滑り込みそうになっていたっけ。

 もしもああやってレイニが触れてくれるのなら、この熱を発散させられるような気がした。

 レイニはしばらく目を点にしていたが、意を決したホムラが彼の手を取って、自分の股間に息づくものに触れさせたことで、目の色を変えた。

「知りたいのですか?」

「うん……教えて、レイニ」

 ホムラの懇願に、レイニは弱かった。

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