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<14話
使用日は意外と早く訪れた。牛島のことだからもっと焦らすのかと思っていた。家に帰ってから電話が来たとき――まるで見張っているかのように、タイミングよく電話が来るのだ――そう言うと、牛島は「期待していたのかな?」と見透かしたようなことを言う。
勝てないや、と貴臣は思った。勝とうという気持ちもないのだけれど。だいたい自分よりも二十歳も違う大人の男相手に、二十歳を超えたばかりの自分が挑もうというのが間違っているのだ。親子ほどに年が離れているのだ。子供の貴臣の内心など、手にとるようにわかるに違いない。
『中身、見たかな?』
いいえ、と貴臣が言うと電話の向こうで牛島が声もなく満足げに笑ったのを感じた。主人の許可もなく勝手に箱を開けることなんて貴臣にはできなかった。
『本当に君は、いい奴隷だね』
決して手放しの褒め言葉ではないのだ。奴隷という一段貶められた立場を褒められても仕方がない。だが貴臣は実際に悦びを感じていた。
――恋はしない。好きになんてならない。けれど欲しい快楽をくれるのは嬉しいから、俺は彼の言うことを、命令を受け入れる。
奴隷契約を結んでから貴臣が内心で決めていたことだ。ゲイにはなりたくない。でも男にされる破廉恥な行為は好き。相反する感情に、一瞬牛島に無理矢理されていることだと考えようとして、彼を悪者にするのだけは嫌だった。
だが結局のところ自分は彼を性具扱いしているのと変わりない。それならば、奴隷として彼により従順でいようと思った。想いを捧げることも、彼のせいにして当たり散らすこともできない中途半端な自分にできる、唯一のことだった。
開けてごらん、と促されてわくわくしながら箱を開けた。あの棚から出てきたところから予測はついていたけれど、それは大人の玩具だった。
ローションは牛島との行為のときに使用するから意図していることはわかる。一緒に入っているたくさんの球が連なった玩具を使用するときに使えというのだろう。貴臣の部屋にはいまだ、オリーブオイルしかない。
だが二つ一組のポンプ型のモノを何に使うのかよくわからない。手に取ってにぎにぎと弄ってみると、化学の実験で使ったスポイトを思い出した。
「これ、なんですか?」
自分でも驚くほど幼い声が出た。牛島は「なに子供みたいなこと言ってるのかな、君は」と苦笑したが、本当にわからないのだ。
「このボールみたいなのは、その、入れる、でしょう? ローションもわかります。でも、これ……理科の実験道具みたいなこれはなんですか?」
『なんだと思う?』
質問に質問で返すのは卑怯だ。貴臣はにぎにぎとポンプを握ったまま、掌に吸い付かせてみる。その吸引力は痛いくらいで驚いた。
『ヒント。二つ一組である理由を考えてごらん』
二つセットということは、それを使う場所も二つあるということだ。この身体の中で二つ一組というと、目、手、足、耳……
「あ」
気がついたようだね、と牛島は吐息だけで笑う。どこよりも敏感な、二つ一組の場所。貴臣の中の最大のコンプレックスだったその場所を、そういえば「今度いいもの使ってあげるね」と言われていたことを思い出す。
『ニプルポンプって言ってね、乳首吸引する玩具。最近君の可愛い乳首も顔を出すようになったみたいだけど、まだまだ油断してると埋もれちゃうからね。治してみよっか』
どうやって、と貴臣は尋ねた。わかっていて聞いた。牛島の要求はわかっている。
貴臣は通話をスピーカー状態にして、ベッドサイドのスタンドに立てかけた。
>16話
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