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<13話
次の日の朝ゆっくりできるときを狙って、貴臣は牛島の店を訪れて、あの特別な部屋でじっくりと身体を嬲られた。指で舌で、そして小さな玩具でまだきつい門をこじ開けられ溶かされたが、本番行為はなかった。それに悩むというよりも、どこまで焦らされるのだろうかと思うと、被虐の欲望が満たされていって、精神はなんとなく満足していた。
そういえば最近、少しだけ乳首がちょこんと出てくるようになった気がする、と朝起きてシャツを着るときに見ながら、少し嬉しくなって笑っていると、ホットミルクをマグカップに入れた牛島がやってきて「なにを笑っているんだい?」と尋ねてきた。
サイドテーブルにカップを置いて貴臣の頭を撫でて、唇を髪の毛に触れさせる。奴隷とはいうけれど、牛島は優しい主人だった。プレイの最中は意地悪なことも言うけれど、本当に痛かったりきつかったりすることはしない。
セックスが終わるとザーメンで汚れた貴臣の身体をきれいに拭き清めてくれる。奴隷のメンテナンスも当然、主人の務めだからね。そう牛島は甘い声で囁く。きれいにされているだけだというのに、体内に残ったローションを指で掻き出される度に羞恥心が芽生えて貴臣は身悶える。
ホットミルクを冷ましつつ一口飲む。ポルノではよく精液を「ミルク」と例えているが、飲み比べてみて「あれは牛乳と違って喉につかえるよなあ」と思う貴臣だった。
砂糖を溶かしたミルクは絶妙な甘さで、叫び疲れた喉を癒してくれる。猫舌の貴臣がゆっくりとホットミルクを飲み干している間に、ささっと牛島はバーの方のキッチンで朝食を作り、奥のこの部屋まで持ってくる。
「食べられそうかい?」
貴臣は頷く。セックスは運動なのだ。まだ若い貴臣はきゅうう、と腹が空っぽなのを訴えて鳴いているのを感じた。無理矢理詰め込むのはいけない、と牛島は軽めの朝食を用意してくれる。
「あ、これ」
この間のときも出てきたクロワッサンを見て、貴臣は頬を緩ませる。
「気に入っていたみたいだから、また買ってきた」
「ありがとうございます」
口の中に入れるとパリ、ふわ、と異なる食感が楽しめて、バターの味わいが口いっぱいに広がる。おいしいかい、と笑顔で問われて「おいしいです」と答える。セックスのときも似たようなやり取りをしているのだが、それとは違い健全な受け答えだった。サラダとヨーグルトも貴臣が気に入ったものを用意してくれているのが嬉しい。
「……」
けれど、本当にこれでいいのだろうか。貴臣の表情が曇ったのを見逃さずに、牛島は食事の手を止めて「貴臣?」と声をかける。
「あ……えっと」
「うん」
急かすことなく牛島は優しい目を貴臣に向ける。
「俺、あなたの奴隷なのに……こんなにしてもらって、悪いっていうか……」
「言っただろう? 奴隷のメンテナンスも主人の仕事だって。無理させて身体壊して、せっかくのきれいな顔と身体崩れたら元も子もない」
「ん……それはわかっているんですけど、でも」
セックスだって自分ばかり気持ちよくなってよがって、自分が何度もイく間に牛島は一度しか射精しない。へたくそなのだろうか、と思い悩むけれど、そもそも牛島は貴臣にあまり奉仕させようとしない。
「俺が、あなたのためにできること、ありますか?」
奴隷ならば奴隷らしく、主人に対して何らかの貢献をしなければならない。遊びではなく契約を交わしたのだから当たり前だ。貴臣は期待を込めた目で牛島を見つめる。牛島もまた、貴臣の本気度を探るかのようにじっと見つめ返す。視線を逸らしたのは牛島だった。
「じゃあこれ、持って帰って。俺が指示したときに使いなさい」
優しい声音での命令にきゅん、となった。はい、とうっとりしながら頷く貴臣の頭には、この箱の中に何が入っているのか、「使う」とはどう使うのか、それしかなかった。
>15話
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