<<はじめから読む!
<16話
子供みたいだからいい、という年下の恋人を、「いいからいいから」と黙らせて、勝弘は部屋の電気を消した。
カーテンも閉めた暗闇の中、エアコンが動いている音だけがする。
部屋をそっと抜け出して、勝弘は準備してあったケーキを運び、やや調子の外れた音で、「ハッピーバースデイ」と歌い始めた。
どうりで勝弘さん、俺とカラオケ行きたがらないわけだよね、と妙に納得している直樹を黙殺して、勝弘は最後まで歌い切る。
「ハッピーバースデイ、トゥ、ユー」
間を長く取って歌い終えると、勝弘は、さぁ、と促した。
直樹は渋々ではあったが、一本だけ立っていたろうそくを吹き消した。
勝弘はそっとケーキをテーブルに置くと、真っ暗な中で、直樹の唇を奪った。舌をぬるりと差し込むと、彼がぴくりと反応したのがわかる。
勝弘の側からキスを仕掛けることは、ほとんどなかった。バードキスですら。
セックスだってこの一年で何度もしたが、いつだって直樹が一方的に、勝弘に奉仕するばかりだった。
オーラルでの行為も、直樹はするが勝弘にはできなかった。したいとは思っているのだが、手で触れることさえできない場合が多かった。
彼は笑って、「いつかできるようになったらいいね」と勝弘の髪の毛を優しく撫でたけれど、いまだに妹の件を引きずって、直樹に自分から性的な接触を働きかけることができない自分自身を、情けないと思った。
でも、今日からは違う。
先日、妹から「彼氏ができた」というメッセージが来た。
添付されていた二人の写真を見て、勝弘は泣いた。
青年は見るからに誠実そうで、優しい目を妹に向けている。
妹も笑っていた。あの頃の、今にも自殺してしまうんじゃないか、という彼女とは違い、ふっくらとした頬は健康的である。
そして直樹も二十歳の誕生日を迎えた。名実ともに、大人として扱われる年齢になった。
もう、負い目に思うことは、何もない。
直樹の股間をまさぐると、彼は唇を離した。
「勝弘さん……大丈夫なの?」
勝弘は大きく頷いて、微笑んだ。
ろうそくの火は消えた。
燻っていた罪の意識も、きれいさっぱりとは言わないが、焦げ跡を残しながらも、消えていく。
「今日は、俺が直樹のこと……気持ちよくしてあげたいんだ」
二十歳の誕生日、本当におめでとう。
勝弘の唇を、直樹は奪う。よく見えていないせいで、位置がずれて、ぶつかったみたいになったのが、おかしかった。
勝弘が小さく笑い声を上げれば、直樹も笑う。
あとは直樹とともに過ごす時間と経験が、傷跡をきれいに消してくれるだろう。
「もう一回」
ねだる勝弘の唇に、今度はきちんと、唇が重ねられた。
(終)
コメント