断頭台の友よ(24)

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23話

 ひとつ。遺体はすべて、首を斬り取られているのは周知のとおり。他の外傷に関しては、致命傷になりうるものは発見されなかった。

 このことより、首斬り鬼はその名のとおり、単純に首を斬り落とすことではなく、「首を斬ることによって絶命させる」という殺害手段としての首斬りにこだわっていると考えられる。なお、切り口はのこぎりで切ったかのようにギザギザしており、首を刎ねることに慣れた人間の犯行ではなさそうだ。

 ひとつ。落とされた首が化粧していたのは、イヴォンヌのものだけだった。また、どの現場でも首は飾り立てることなく、無造作に捨て置かれていた。一様に穏やかな表情で亡くなっており、身体の方も激しい抵抗や暴行を加えられた形跡はない。

「何件かは、被害者の頭に殴られた痕があった。これはきっと、首を斬るときに抵抗されたせいだと思うが……そうすると、僕は恐ろしいことを考えてしまうんだ」

「どういうことだ?」

 骨に守られているわりに、どうも頭という部分は脆いものだ。事故で強く打った直後にはなんともなくても、一日後二日後に激しく痛み、死に至ることさえある。首を斬ることにこだわる殺人鬼が、頭を殴るのに手慣れており、死なない程度に殴打することができるとは、思えなかった。

 クレマンは未解決事件の資料の束の中から、早急に取り出した何件かの遺体についての情報を持ち込んでいた。いずれも、頭部を強く何度か殴られて死亡したと見られ、室内や衣服に乱れはなく、その他の身体の部位に傷がない。

「これが、奴の犯行であると?」

「かもしれない」

 生きた状態で首を斬ることを追求する犯人は、誤って殺してしまった死体を損壊することはないだろう。殴殺死体のうちの何件かは、首斬り鬼と同一人物によって殺されたかもしれない。

「とまぁ、以上が僕からの報告と、推測だ。オズ、君の方は何かあったかい?」

 首斬り以外の事件を洗い直すには、圧倒的に時間が足りない。クレマンはオズヴァルトが外出したがっている気配を察して、促した。

「こちらも、成果らしい成果はないな」

 悔しそうな顔で、要点をかいつまんだオズヴァルトの報告を、クレマンは手元の紙に目を落とさずに速記する。

 被害者のほとんどは、裕福な商家の人間か、下級の貴族に偏っている。貴族のほとんどが、かつての栄光を失った没落貴族か、あるいは爵位を金で買ったはいいが、責任のある立場にはついておらず、日々を無為に過ごしている人間ばかりなのは興味深いが、ただそれだけだ。

「社交界で人気のある人ない人、恨みを買ってる人、誰からも善良だと慕われていた人……君の言う見えない鎖みたいな関係性、俺は見つけられなかった」

 役立たずですまないと謝られて、クレマンは慌てて否定した。クレマンにはできないことを、オズヴァルトは肩代わりしてくれている。感謝こそすれ、文句を言うことなど考えられなかった。

25話

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